胸腺がんは「希少がん」の一つに数えられるほど発生頻度が低い病気です。情報が少ないことから、不安に感じている方も多いかもしれません。一方で、胸腺がんは患者さんが適切な治療を受けることで、根治を目指せる病気でもあります。
本記事では、胸腺がんの概要や、胸腺腫との違い、主な症状とリスク要因、検査方法、主な治療法について解説します。胸腺がんの基本的な知識について知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
<この記事で分かること>
- ● 胸腺がんとは、胸腺の上皮細胞からできる悪性腫瘍のこと
- ● 罹患率は低いが、30代以上から発症する可能性がある
- ● 治療は外科手術が基本だが、薬物療法や放射線療法、免疫細胞治療などの選択肢もある
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胸腺がんとは? 胸腺腫との違いを解説
胸腺がんとは、胸腺の上皮細胞から発生する悪性腫瘍のことです。
胸腺は胸骨と心膜の間、つまり胸骨の裏側にある組織で、T細胞(Tリンパ球)やホルモンを産生する役割を担っています。
胸腺を構成する胸腺上皮から発生する腫瘍が「胸腺上皮性腫瘍」です。また胸腺上皮性腫瘍はさらに「胸腺腫」「胸腺がん」「胸腺神経内分泌腫瘍」の3つに分類されます。
胸腺腫との違い
胸腺がんと間違われやすい病気に「胸腺腫」があります。どちらも「胸腺上皮から発生する悪性腫瘍」ですが、進行スピードなどの特徴が大きく異なります。
胸腺腫の場合は、細胞分裂・増殖のスピードが比較的緩やかです。周囲に広がることはありますが、原発巣(最初にがんができるところ)から離れた部位への転移がすぐ発生することはありません。ただし、胸腺腫の患者さんは全身の筋力低下などが起こる自己免疫疾患の一種である「重症筋無力症」を合併するケースが多い傾向にあります。
胸腺がんの場合は、細胞分裂・増殖のスピードがかなり速めです。離れた部位への転移もしやすく、発見と治療が遅れれば遅れるほど治療が難しくなる傾向にあります。なお、胸腺腫のように重症筋無力症を合併することはほとんどありません。
胸腺がんの罹患率
胸腺がんは希少がんに分類されます。2016年〜2018年の診断症例をまとめたがん統計によると、胸腺がんの粗罹患率(人口10万対)は1.51人です(※)。粗罹患率は、一定期間の罹患数をその期間の人口で割った数値です。この場合「人口10万人のうち、1.51例罹患例があった」ことを示しています。
2023年における胸腺がんの死亡者数は471人で、悪性新生物(腫瘍)の死亡者を100%とすると、全体の0.1%でした(※)。
このように、胸腺がんはがん全体から見ると非常にまれな疾患です。一方で、胸腺がんは男女関係なく、30歳以上で発症することが多いといわれています。「胸腺がんはごくまれな病気であるものの、若くからかかる可能性がある」と考えておいた方が良いでしょう。
※参考:公益財団法人 がん研究振興財団.「がんの統計2025」."希少がん分類別がん年齢調整罹患率(2016〜2018年診断症例)""ICD-10 三桁分類別がん死亡(死亡数・割合)(2023年)".
https://www.fpcr.or.jp/pdf/pamphlet/cancer_statistics_2025.pdf ,(2025-11-27).
胸腺がんの主な症状
胸腺がんは、周辺の組織に影響が及ぶほどの大きさにならない限り、目立った症状が現れにくいです。そのため早期発見は難しく、他の疾患で受診した際や、CT検査などを伴う健康診断を受けた際に発見されるケースが多い傾向があります。
腫瘍が大きくなってくると、胸の圧迫感や痛み、咳、息苦しさといった症状が出始めます。静脈の圧迫により、うっ血やむくみ、顔や首が腫れる上大静脈症候群が起こることもあります。また上大静脈症候群が重症化すると、意識障害や気道閉塞を引き起こす恐れがあり、注意が必要です。
胸腺がんの主なリスク要因
胸腺がんのリスク要因は、現在も明らかになっていません。一般的ながんのリスク要因とされる喫煙や飲酒、肥満、食生活、感染などとの関連性も、明確には証明されていないのが実情です。
遺伝子変異の蓄積がリスク要因になっているという説もあります。一方で、家族性(血縁関係にある家族に同一疾患が認められること)の胸腺がんは非常に少ないという報告もあります。
前述の通り、胸腺がんは男女による差もほとんどありません。そのため、原因やリスク要因を基に予防方法を検討するのは困難でしょう。
胸腺がんを早期に発見し、治療を始めるためには、CT検査などを伴う定期的な健康診断を受診することが大切です。
胸腺がんの主な診断・検査方法
胸腺がんの診断には、前述した症状に加え、画像検査・血液検査・組織検査などを実施するのが一般的です。ここでは、それぞれの検査方法の特徴について解説します。
画像検査
画像検査は、胸腺がんの状態や位置、周辺組織との関係を調べるために行われます。主な画像検査は以下の通りです。
- ● 胸部X線検査
- ● 胸部CT検査
- ● 胸部MRI検査
- ● PET検査
それぞれの検査方法について解説します。
胸部X線検査
胸部X線検査は、X線を体に照射し、体を通過したX線の量の差によって体の中を画像にして表す検査方法です。X線撮影は比較的短時間で終わる上、すぐ画像で確認できることから、健康診断などにも幅広く用いられています。
ただし、X線検査は一定の方向しか画像にすることができません。骨と重なっている胸腺の場合、腫瘍が小さいときなどはX線検査だと見つかりにくい可能性があります。
胸部CT検査
胸部CT検査はさまざまな方向から体にX線を照射し、体内にある成分によるX線の吸収率の違いをコンピュータ処理して画像にする検査方法です。
胸部CT検査では、連続した断面の画像を作成することで、具体的な体内の状態を探ります。胸腺がんや縦隔(胸腺が存在する空間)の状態を立体的に観察し、詳細を調べられるところが利点です。
胸部MRI検査
胸部MRI検査は、強力な磁石と電波によって体内の様子を画像にする検査方法です。磁場を発生させたトンネル状の装置内で、電波を体に当てて行います。
検査時間は胸部CT検査よりも長くなるものの、胸腺がんと大血管、心臓、骨との関係を調べたり、腫瘍の性状を診断したりすることができます。
PET検査
最後のPET検査とは、放射性フッ素を付加したブドウ糖(FDG)を患者さんに投与し、細胞に取り込まれたブドウ糖の分布を画像化する検査方法です。
がん細胞は、正常な細胞よりもブドウ糖を多く取り込む性質があります。そのため、PET検査によって、がんの有無や位置、広がり方などを高精度で診断することが可能です。
組織検査
組織検査とは、腫瘍の一部を採取して検査する方法のことです。その腫瘍が悪性かどうかを確定診断するために行われる他、手術で切除するのが困難な場合は今後の治療方針決定のために実施されることもあります。
組織検査は大きく分けて、針生検と胸腔鏡下生検の2つに分かれます。
針生検
針生検とは、細い針を使用して腫瘍の一部を採取し、顕微鏡で調べる方法です。細胞診または組織診とも呼ばれています。
胸腺の場合、周囲に肺や心臓といった重要な臓器が存在するため、安全のために胸部CTで腫瘍の位置を確認しながら施術するのが一般的です。
胸腔鏡下生検
胸腔鏡下生検は、胸に穴を開けて小型カメラ(胸腔鏡)を挿入し、病変を摘まみ取って調べる検査です。針生検よりも大きな組織を採取できるため、より詳細に組織を評価することができます。
施術は全身麻酔下で行われるため、術中の痛みはありません。しかし、全身麻酔そのものにリスクがあるため、基本的には針生検で確定診断できなかった場合に実施されています。
血液検査
胸腺がんが疑われる場合の血液検査とは、血液に含まれる腫瘍マーカーの測定を行う検査を意味します。
腫瘍マーカーとは、がん細胞によって作られるタンパク質などの物質の総称です。また腫瘍マーカーの数値は、がんの種類や臓器によって異なります。この性質を利用し、がんの有無や位置を推測できます。胸腺がんの場合は、CEAやCYFRAなどの腫瘍マーカーの値が上昇するケースが多いようです。
ただし、腫瘍マーカー検査だけを行っても、がんの有無や位置、進行度、転移の有無などは判断できません。がんではなくても数値が高くなったり、逆にがんでも数値が上昇しなかったりするケースがあるためです。
さらに、腫瘍マーカーは加齢や飲酒、喫煙、月経、妊娠、薬の成分などによっても数値に影響が出ます。従って、数値の上昇が見られたとしても、がんであるとは断定できません。
以上の点から、血液検査はあくまでもその他の検査の補助や、診断後の経過観察、治療の効果の確認などに用いられるのが一般的です。
胸腺がんの主な治療法
胸腺がんの主な治療法には、以下のようなものがあります。
外科手術
外科手術は、がんを物理的に切除する治療法です。
胸腺がんの場合、胸骨を縦に切開し、胸腺および周辺の脂肪組織を取り除く手術を行います。腫瘍のサイズが大きい場合は開胸手術を行いますが、近年は、ロボットや胸腔鏡を用いた手術が選択肢となるケースもあるでしょう。
外科手術のメリットは、がんの根治を目指せるところです。一方で、目視できないレベルの小さな転移が起こっている場合や、全身に広がっているケースは手術が適用できません。
また手術は体に負担がかかるため、体調や年齢によっては、医師から「手術できない」と判断される場合もあります。その場合、他の療法を用いて進行を食い止めたり、症状を緩和したりする治療法を選択することになります。
薬物療法
胸腺がんにおける薬物療法とは、主に抗がん剤を使用してがん細胞の死滅を目指す治療法です。外科手術でがんを取り除いた場合でも、周辺組織や他の部位に転移している可能性があるため、薬物療法との併用が選択されます。
胸腺がんの場合、シスプラチンやアドリアマイシン、メチルプレドニゾロンなどを用いたCAMP療法や、カルボプラチンとパクリタキセルを組み合わせた療法が用いられるのが一般的です。
抗がん剤を用いた薬物療法は、全身に広がったがんの治療に有効です。しかし、正常な細胞にも攻撃を加えるため、副作用のリスクがあります。
放射線療法
放射線療法とは、高エネルギーの放射線を照射して体内のがん細胞を殺傷する治療法のことです。基本的に、外科手術で切除不可と判断された胸腺がんに対して行われます。また腫瘍を縮小させる目的で外科手術の前に実施したり、術後に体内に残るがん細胞を全滅させる目的で行ったりする場合もあります。
胸腺がんの場合は、息苦しさや呼吸困難などの症状を軽減するために、放射線療法を行うこともあるでしょう。
免疫細胞治療
免疫細胞治療とは、患者さんが生まれつき備えている免疫機能を強化することによってがんの治療を目指す療法です。人間の免疫細胞は、体内のがん細胞や外から侵入してきたウイルスに攻撃する性質を持っています。
免疫細胞治療はこれら免疫細胞の数を人工的に増やしたり、がんへの攻撃性を高めるようにしたりすることを目的とした治療です。副作用リスクを軽減しながら治療できる方法として、近年注目されています。
まとめ:胸腺がんと診断されたら、自分に適した治療法を検討しよう
胸腺がんは、がんの中でも希少でまれな症例とされています。発症する患者さんは30代以上が多く、男女差はありません。
特に胸腺がんは初期症状がほとんどなく、腫瘍が小さいうちは異変に気付きにくいです。そのため、CT検査などを伴う健康診断を定期的に受け、早期発見・早期治療に努めることが重要です。
標準的な治療法としては、外科手術や薬物療法が行われています。また近年は免疫細胞治療などの治療法も選択肢の一つです。主治医と相談しながら、患者さん自身に合う治療法を検討しましょう。
瀬田クリニック東京では、患者さんの状態に応じて免疫療法を使い分ける「個別化医療」を行っています。「免疫細胞治療について知りたい」「胸腺がんの治療法の選択肢として検討したい」という方は、お気軽にお問い合わせください。
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