がん治療中の方の中には、治療中や治療後に「せん妄」が起こる方がいます。せん妄が起こるのはがんに限ったことではありませんが、比較的高い頻度で起こる可能性があるため、ご本人はもちろん、ご家族もせん妄について知っておくことが大切です。
本記事では、せん妄の症状や要因、なりやすい方の特徴、ご家族ができる対応について分かりやすく解説します。せん妄は適切なケアによって改善できる症状です。本記事を参考に、せん妄への理解を深めていきましょう。
<この記事で分かること>
- ● せん妄は意識障害を伴う精神障害で、暴力や暴言、幻覚や妄想などの症状が出る「過活動型」と、無気力や注意力低下などが起こる「低活動型」、この両方が起こる「活動水準混合型」がある
- ● せん妄になるメカニズムは解明されていないが、準備因子・直接因子・促進因子が関係していると考えられている
- ● せん妄になった場合は影響が疑われる因子を取り除くことが重要だが、必要に応じて薬物療法が行われる
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がん患者さんに起こりやすい「せん妄」とは?
せん妄とは、軽度から中等度の意識障害を伴う精神障害の一つです。脱水や感染、貧血、薬物の投与・服用など、何らかの原因で急性の脳機能障害が生じ、さまざまな症状を引き起こします。
いろいろな疾患の患者さんに発症リスクがありますが、中でもがん患者さんには高頻度でせん妄が認められることが分かっています。一般社団法人 日本サイコオンコロジー学会と一般社団法人 サポーティブケア学会が共同発刊したガイドラインによると、がん患者さんにせん妄が起こる割合は、以下の通りです(※)。
- ● 一般病院に入院しているがん患者さん:10〜30%
- ● 治療以外の目的で入院している高齢の進行性肺がん患者さん:40%
- ● 緩和ケア病棟に入院しているがん患者さん:42%
- ● 終末期の患者さん:88%
せん妄は一日で症状が大きく変わることも多いです。うつや認知症と間違われることもありますが、ある日は症状が強く出ていたものの、翌日には通常に戻っているということもあります。
また初期は症状が軽いケースが多く、注意散漫になりぼーっとしているように見える他、睡眠の乱れが生じるケースもあるため、初期にせん妄が起こっていることを見抜くのは簡単ではありません。
ご家族が「普段と何かが違う」と違和感を覚えたことで、発見に至ることもありますが、患者さんの性格や状態、経過などを把握していなければ、経験豊富な看護師でも気付けないこともあります。
※参考:一般社団法人 日本サイコオンコロジー学会・一般社団法人 サポーティブケア学会.「がん患者におけるせん妄ガイドライン 2019年度版」.P24.
https://jpos-society.org/pdf/gl/delirium/all_jpos-guideline-delirium.pdf ,(参照 2019-07-30).
【タイプ別】せん妄の症状
せん妄は大きく分けて、以下の3タイプがあります。
- ● 過活動型
- ● 低活動型
- ● 活動水準混合型
それぞれどのような特徴があるのかを見ていきましょう。
過活動型
過活動型は、通常よりも精神的な落ち着きが失われ、興奮状態が強まるタイプのせん妄のことです。
主に以下のような症状が現れます。
- ● 暴力
- ● 暴言
- ● イライラ
- ● 興奮
- ● 幻覚
- ● 妄想
- ● 不眠
- ● 徘徊
症状によって、患者さん本来の性格や様子とはかなり変わって見えるため、ご家族が精神的なショックを受けるケースも少なくありません。誤った思い込みによって、会話のつじつまが合わなくなったり、現実とは異なることをあたかも現実のように話したりすることもあります。
低活動型
低活動型は、通常よりも気力がなくなったり反応が低下したりするタイプのせん妄のことです。
主に以下のような症状が現れます。
- ● 意欲低下
- ● 無気力
- ● 注意力低下
- ● 思考力低下
- ● 会話量・スピードの低下
- ● 無表情
- ● 引きこもり
さまざまなことに対して意欲が減り、ぼんやりと過ごす時間が増える他、表情の変化が乏しくなったり反応が鈍くなったりすることがあります。特にうつや認知症と間違われやすいのが、この低活動型です。
症状が悪化すると、場所や時間、人の顔や存在を認識できなくなる「見当識障害」が起こることもあります。
活動水準混合型
活動水準混合型は、24時間以内に「過活動型」と「低活動型」の両方の症状が見られるタイプのせん妄です(※)。
例えば、暴力的になったり幻覚を見たりといった症状が出た後、24時間以内に無気力になったり反応が鈍くなったりした場合、このタイプのせん妄が起こっていると考えられます。
※参考:一般社団法人 日本サイコオンコロジー学会・一般社団法人 サポーティブケア学会.「がん患者におけるせん妄ガイドライン 2019年度版」.
https://jpos-society.org/pdf/gl/delirium/all_jpos-guideline-delirium.pdf ,(2019-07-30).
せん妄になる要因
せん妄が起こるメカニズムは、まだはっきりと解明されていません。しかし、がん患者さんのせん妄は、以下の3つの因子が影響を与えていると考えられています。
- ● 準備因子
- ● 直接因子
- ● 促進因子
ここからは、せん妄の発症に関係するとされる3つの因子について詳しく見ていきましょう。
準備因子
準備因子とは、その人が本来持っているせん妄を発症しやすくなる要因のことです。
代表的な準備因子には、以下のものがあります。
- ● 高齢であること
- ● 認知症を発症していること
- ● ADL(日常生活動作)が低下していること
- ● 脳血管疾患を患っていること
- ● アルコールを多量に摂取している(いた)こと
- ● 薬物を乱用している(いた)こと
- ● 以前にせん妄を経験していること
- ● 重度な身体的疾患を抱えていること
例えば、高齢で認知症を発症しており、ADLが低下していることに加え、過去にアルコールを多量摂取していた場合、4つの準備因子を持っていることになります。
直接因子
直接因子とは、文字通りせん妄を引き起こす直接的な原因となる因子のことです。
代表的な直接因子には、以下のものがあります。
- ● せん妄を引き起こしやすい薬剤を使用する
- ● 全身疾患が悪化する
- ● 脱水症状が起こる
- ● 手術や放射線治療を受けた
- ● 呼吸器以外で感染症が起きている
- ● 肺がんや呼吸器感染症により、低酸素脳症が起きている
- ● 腎不全・肝不全が起きている
- ● 電解質異常が起きている
例えば、がんを患っている患者さんには、痛みを緩和するために「コデイン」や「モルヒネ」といったオピオイド系鎮痛剤を使用するケースがあります。このオピオイド系鎮痛剤は、せん妄を引き起こしやすい代表的な薬剤の一つです。抗ヒスタミン薬や抗コリン薬、向精神薬などもせん妄の直接因子になることがあります。
また手術や放射線治療を受けた直後に、せん妄が起こることは珍しくありません。特に手術後、1日〜3日後の回復期に起こる「術後せん妄」は、術後の合併症として最も多く起こるとされています(※)。
※参考:公益財団法人 長寿科学新興財団.「術後せん妄」.
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/kango/jutsugosenmou.html ,(2019-06-21).
促進因子
促進因子とは、単独ではせん妄を引き起こすことはないものの、準備因子や直接因子と組み合わさることで、せん妄の症状を悪化させる因子のことです。
代表的な促進因子には、以下のものがあります。
- ● 便秘・脱水、痛みなどの症状がある
- ● 視力障害・聴力障害・睡眠障害などがある
- ● 入院や施設への入居などの環境的変化がある
- ● 騒音や明るさ、暑さなどのストレスがある
促進因子は、患者さんが置かれている環境や、社会的な心理など、コントロールが難しいものも含まれます。
がん患者さんがせん妄になった場合のリスク
がん患者さんがせん妄になると、無意識のうちに点滴やチューブを外したり、ベッドから転落したりといった危険行動のリスクが高まります。危険行動によりけがをしてしまうと、介護者・介助者の負担も大きくなってしまうでしょう。
また意思がはっきり示せない、安静にできないといった状態になれば、がん治療を円滑に行えません。その結果、治療に遅れが出てしまい、場合によっては治療の継続が難しくなることもあります。
せん妄が起こっている間のことを覚えていない方もいれば、部分的に記憶が残っている患者さんもいます。せん妄の症状が起きたことを断片的にでも覚えていれば、患者さん自身が強い精神的不安を感じてしまう可能性も高いです。
せん妄が起きた場合に家族ができる対応
がん治療を受けている方にせん妄が起きた場合、ご家族がそばにいるだけでも安心につながります。できる範囲で付き添い、優しく声を掛けてあげましょう。
患者さんがつじつまの合わない話をしている場合、それを指摘したり訂正したりすると、混乱が大きくなってしまう恐れがあります。せん妄が起こっている間は、患者さんの話を否定せず、受け止める姿勢が大切です。
また患者さんの目に付くところに、カレンダーや時計、家族の写真などを置くのも効果的です。一方で、ハサミやカッター、ライターなど、危険なものは手の届かない場所に移しておきましょう。
必要に応じてご家族が医師や看護師と相談し、治療やケアの方針を話し合うことも大切です。
せん妄が起きたときはご家族のケアも大切に
せん妄によって患者さんの言動や様子が変わり、性格が変わったような状態になれば、一番近くにいるご家族が精神的なショックを受けるのは当然のことです。
がん患者さんにせん妄が起きた場合、ご家族が患者さんを気に掛けてあげることも大切ですが、ご家族自身のケアも重要になります。
せん妄はがんが進行すると、誰にでも起こる可能性があり、治療や環境の調整によって改善が期待できる場合もあります。患者さんだけではなく、ご家族もせん妄に関する正しい知識を持つことで、症状が起きた際の不安や動揺を少しでも和らげられるでしょう。
せん妄の予防方法
せん妄は確実に予防できるものではありません。しかし、リスク要因をできる限り少なくすることで、防げる可能性はあります。
がん治療中の方やそのご家族は、せん妄の予防方法を理解しておきましょう。
規則正しい生活を心掛ける
せん妄予防のためには、規則正しい生活を心掛けることが大切です。
朝起きて陽の光を浴び、日中に活動して、夜は質の良い睡眠を取れるようにし、一定のリズムで生活しましょう。このリズムは入院中も、なるべく崩さないことが大切です。日中家で過ごすことが多い方は、ご家族と一緒に買い物や散歩をするなど、適度な運動習慣も作ると良いでしょう。
適切に薬剤を服用する
適切な薬の服用は、効果的ながん治療を行うだけではなく、せん妄を予防する上でも大切です。
服薬中の方は、医師や薬剤師の指示に従い、薬の量や飲むタイミングを守る必要があります。体調や病状によっては、ご家族が薬の管理を行うと良いでしょう。薬を正しく服用して体調を安定させることが、せん妄の予防につながります。
また薬の中には、成分によってせん妄を引き起こす可能性のあるものもあります。気になる薬がある場合は、自己判断せず、医師や薬剤師に相談しましょう。服薬を自己判断で中断すると、逆にせん妄が悪化するケースもあります。薬に関しては、専門家の指示を守ることが何より重要です。
快適に過ごせる環境を作る
快適に過ごせる環境を作ることも、せん妄予防に効果的です。
引っ越しやリフォームなどによる急な環境の変化、あるいは周囲のストレスは、せん妄のきっかけになることがあります。できる限り、患者さんが慣れ親しんだ環境で過ごせるように工夫しましょう。入院時には、ご家族の写真や愛用の小物など、安心感が得られるものを持ち込むのもおすすめです。
また強過ぎる照明や騒音、不快なにおいなど、聴覚や視覚、嗅覚への刺激もせん妄を引き起こす要因となる場合があります。明るさや音の環境、空気の質などを調整し、落ち着いて過ごせる空間を整えることが大切です。
せん妄の治療法
せん妄の治療法はまだ確立されておらず、脳機能を乱れさせている原因を取り除くことが効果的な治療法だとされています。
せん妄の症状が出た場合、まず原因を特定し、要因であると考えられる因子を取り除きます。例えば、発熱により脱水が起き、それがせん妄に影響している場合、発熱や脱水を改善するための治療を行うのが一般的です。生活リズムや環境が影響している場合、せん妄が軽減できるように調整が行われます。
これらの対応を行っても症状が改善しない場合や、がんの治療を円滑に進めるために早期の改善が必要な場合には、医師の判断で薬物療法が行われることもあります。ただし、薬の効果や適応には個人差があるため、主治医の判断に従いましょう。
がんの治療に当たっては、せん妄の正しい知識を持つことが重要
がんの治療を受けている全ての方に、せん妄の症状が現れるわけではありません。しかし、万が一せん妄が起きたときに必要以上に不安にならないためには、患者さんご本人はもちろん、ご家族も正しい知識を持っておくことが大切です。これまでご紹介した予防のポイントを意識しながら過ごし、もし違和感や症状が見られた場合は、早めに医師へ相談しましょう。
がんの標準治療には、手術療法・放射線療法・薬物療法がありますが、第四の治療法として登場したのが「免疫細胞治療」です。患者さん自身の免疫細胞を活用するこの治療は、比較的副作用が少なく、体への負担を抑えながら治療を行うことができます。
国内初の免疫細胞治療専門医療機関である瀬田クリニック東京では、これまでに24,000例以上の治療実績を基に、患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療を提案しています。今後の治療方針でお悩みの方や、免疫細胞治療に関心のある方は、お気軽に瀬田クリニック東京へご相談ください。
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