免疫による攻撃とその制御システムの話院長ブログ

免疫とは何か
「免疫」とは、「自分にとっての【異物】を、攻撃し排除するはたらき」と定義されます。異物とは病原体(細菌やウイルスなど)や病原体に感染した細胞、あるいは正常な細胞に異常が起こって発生したがん細胞など、病気のもと示し、疫から免れるということから免疫と言います。このように“攻撃する“ことが免疫の役割ですが、一方で、この攻撃を抑えるしくみも免疫には備わっています。そのような役割を担う免疫細胞が存在することは、すでに1970年代から現象としてとらえられていました。
免疫抑制研究の始まり
-サプレッサーT細胞の時代
私が医師の傍ら、免疫学の研究をはじめたのは1980年代です。当時は免疫抑制の研究がとても盛んで、ある条件下で免疫反応を抑えるサプレッサーT細胞という細胞の存在が示されていました。この概念を提唱されたのが、日本免疫治療学会の免疫細胞治療学の草分け的存在でいらした、東京大学教授(当時)多田富雄先生です。しかし、細胞の実体が十分にはつかめず、その後の分子生物学的手法では、その存在を見つけることができませんでした。このサプレッサーT細胞は細胞のマーカーとしてCD8を持つとされていました。
坂口志文先生による制御性T細胞(Treg)の発見
今回、ノーベル医学生理学賞を受賞された坂口志文先生が発見されたのが、制御性T細胞です。制御性T細胞は、CD8ではなく、CD4というマーカーを有し、さらにfoxp3というマスター遺伝子をもっています。
攻撃してはいけない対象
免疫の攻撃が生じてはいけないものは、以下の3つです。
- 正常な細胞
- 妊娠中の胎児の細胞
- 移植された他人の細胞
正常細胞が攻撃されると自己免疫疾患となりますし、胎児が攻撃されると流死産につながるでしょう。しかし、正常細胞と胎児の細胞は自然に守られるしくみが体に備わっています。一方、臓器移植という行為は、長い進化の過程で予測されていなかった人為的なものであり、自然なしくみとして神は人の体に与えていなかったと考えます。
多様な免疫抑制の仕組みと免疫チェックポイント
免疫応答を抑えるしくみはT細胞以外にも様々な形で存在しています。その代表的なものが、免疫チェックポイントという分子機構です。余談になりますが、1980年代当時は抗体のレベルでも免疫抑制の研究が行われていました。私も当時、母体が免疫攻撃から胎児を守る抗体の研究をしていました。取るに足りない研究結果ではありますが、下記は1989年に発表した私の論文のタイトルです。
MLR-blocking antibodies are directed against alloantigens expressed on syncytiotrophoblast.
免疫反応を抑える役割を担うBlocking antibodyという抗体の存在が考えられていました。Syncytiotrophoblastとは、母児間の接点である胎盤の胎児由来の細胞です。
がん免疫治療への応用
免疫が抑えられてしまっては困るものの代表は病原体とがん細胞などの異常な細胞です。近年、がん細胞への免疫応答を抑える免疫チェックポイントを阻害する治療が登場し、がん治療においてブレークスルーをもたらしました。今後は、過剰な制御性T細胞を抑える治療法も、がん治療において有望な手段になるものと考えられます。
瀬田クリニックと日本免疫治療学会の歩み
瀬田クリニックは1999年に東大名誉教授の江川滉二先生によって創設されました。江川先生は、保険外のがん治療については、その分野の研究者により十分に議論され、その意見に耳を傾けなければならないと考え、2003年に日本免疫治療研究会(現日本免疫治療学会)を設立しました。
2009年の第6回学術集会では坂口志文先生にご講演をいただきました。当時は学会ではなく小さい研究会でしたが、坂口先生に講演のお願いに行ったところ、快く二つ返事でお引き受けくださいました。今回の坂口先生のノーベル賞受賞は、本学会にとっても大変な快挙と言えそうです。


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