前立腺がんとは、男性にのみ存在する臓器「前立腺」に生じる悪性腫瘍のことです。男性のがんの中で特に罹患数が多く、中高年期に好発します(※)。他のがんと比べ進行が遅く、早期発見・治療できれば根治の可能性もあり、予後も順調です。一方、自覚できる症状は排尿痛など限定的なため、少しでも違和感があればすぐに医療機関を受診しましょう。
本記事では、前立腺がんの基礎知識と症状、発生原因、検査方法、治療方法を紹介します。
※参考:公益財団法人 日本対がん協会.「がんの部位別統計」.
https://www.jcancer.jp/about_cancer_and_knowledge/%E3%81%8C%E3%82%93%E3%81%AE%E9%83%A8%E4%BD%8D%E5%88%A5%E7%B5%B1%E8%A8%88 ,(参照2025-03-28).
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【基礎知識】前立腺がんとは?
前立腺がんとは、男性にのみ存在する臓器「前立腺」に生じる悪性腫瘍です。先に前立腺がどこにあるのか構造や役割を解説し、前立腺がんの基礎知識を紹介します。
前立腺の構造や役割
前立腺は膀胱のすぐ下にある、栗の実に似た形と大きさの臓器です。断面で見ると外側から被膜・外腺(辺縁領域)・内腺(中心領域・移動領域)・尿道の順に位置し、ちょうど前立腺が尿道を取り囲む構造になっています。前立腺内で、尿道と射精管(精液の通り道)は合流します。
前立腺は以下の機能を持つ、男性の生殖と排泄を補助する臓器です。
- ●前立腺液を分泌し、精子を保護したり運動を活発化させたりする
- ●射精時には精液の射出を補助する一方、尿道は閉じる
前立腺液には、精子の運動能力を高める栄養が含まれています。また、前立腺は平滑筋でできており、収縮して射精時に尿と精液が混ざるのを防ぎ、射精の勢いを増す働きを担います。
前立腺がんのステージと悪性度
前立腺がんの多くは腺がんといい、上皮組織の腺組織に生じるがんで、腺組織は分泌機能を担っています。前立腺がんの状態分類は、進行度(ステージ・病期)と悪性度により判断します。
ステージ
ステージは広がりや転移から判断する「TNM分類」を用いるのが一般的です。
- ●T:前立腺内の広がり
- ●N:骨盤内のリンパ節への転移の有無
- ●M:離れた他の臓器や組織への転移の有無
上記を元に前立腺がんのステージを分類すると以下となります。
ステージ | 前立腺がんの状態 |
---|---|
ステージ1 | 左右どちらかの前立腺内にとどまっているがんのうち、 がんの占める割合が腺内の1/2を超えない |
ステージ2 | 左右どちらかの前立腺内にとどまっているがんのうち、 がんの占める割合が腺内の1/2を超える または両側の前立腺内にがんがとどまっている |
ステージ3 | がんが前立腺被膜を超えて広がり、精嚢に浸潤している |
ステージ4 | がんが周辺の臓器に浸潤し骨や他の臓器に転移している |
浸潤とはがん細胞が別の臓器や組織に広がることです。また転移とは、がん細胞が血液やリンパ液にのって別の臓器に流れ、そこで増殖している状態です。
悪性度
悪性度はグリソンスコアで判定します。判定方法に必要な指標や判定方法は以下の通りです。
グリソン分類:
前立腺がんの組織型を悪性度の低いものを1、高いものを5とする5段階評価で分類します。なお、現在では1~2はがんと見なしません。
グリソンスコアを算出する:
採取した前立腺がんの細胞から、面積の大きい順に2つ選びグリソン分類の点数に当てはめます。当てはめた点数を合算すると、グリソンスコアを算出できます。算出され得るスコアの範囲は6~10です。
グリソンスコア別の悪性度は以下の通りです。
悪性度 | グリソンスコア |
---|---|
低 | 6 |
中 | 7 |
高 | 8~10 |
前立腺がんは、悪性度の異なるがんが同時に発生するケースもあるため、グリソンスコアを用いて判断します。
前立腺肥大症との違い
前立腺がんと似た症状が現れる病気に「前立腺肥大症」があるものの、両者はまったく異なります。前立腺肥大症は前立腺が鶏卵程度かそれ以上に大きくなり、排尿困難などの症状が現れる病気です。
前立腺がんと異なり良性の病気ではあるものの、症状が進むと尿が出なくなることもあります。なお、前立腺肥大症と前立腺がんが並行して発症するケースもあります。
前立腺がんの症状
早期の前立腺がんはこれといった症状がほとんどありません。進行し、がんが大きくなると尿道を圧迫するため、排尿困難などの症状が現れます。また、さらに進行が進み転移すると、腰痛などの骨の痛みや転移先の臓器の痛みとして現れることがあります。
早期の症状
前立腺がんはがん特有の症状がなく、早期には自覚できる症状もほとんどありません。進行が特に遅く初期症状もない場合、他の病気の検査時などで前立腺がんが見つかったり、死後まで見つからなかったりするケースもあるほどです。このように、死後の解剖で見つかるがんを「ラテントがん」といい、前立腺がんでは比較的多い傾向にあります。
進行後の症状
前立腺がんが進むと次の症状が出ることがあります。
- ●尿が出にくい
- ●頻尿
- ●残尿感
- ●排尿時の痛み
- ●下腹部の不快感
- ●尿の切れが悪くなる
- ●尿が我慢しにくい
- ●尿が出なくなる(閉尿)
これらの症状は前立腺がんが尿道を圧迫するため生じます。前立腺肥大症の症状と酷似するものもあるため、間違いのないように注意しましょう。
転移後の症状
前立腺がんが尿道や膀胱、精嚢に浸潤したり、骨に転移したりすると以下の症状が出ることがあります。
- ●血尿
- ●精液に血が混ざる
- ●尿失禁
- ●骨痛(腰痛)
なお、前立腺がんは肺や胃など、遠隔転移も起きます。その場合、転移場所に応じそれぞれ特有の症状が現れます。
前立腺がんの発生原因と危険因子
前立腺がんは前立腺の細胞が何らかの原因により異常増殖するために起こります。しかし、詳しい発症原因は分からない部分が多く、発生リスクを高める要因(危険因子)の推定にとどまっています。
ここでは、代表的な発症に関連があるとされる因子について見ていきましょう。
遺伝
遺伝により生じるメカニズムは分かっていないものの、近親者に前立腺がんの者がいる場合、発症リスクが1~8倍程度に高まります(※)。
- ●父親が前立腺がんのとき:
1.65~3.77倍 - ●兄弟が前立腺がんのとき:
2.57~3倍 - ●父・兄弟・子のいずれかが
前立腺がんのとき:
2.26~8.73倍
※参考:独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター.「前立腺がん(泌尿器科)」.
https://osaka.hosp.go.jp/cancer/cancer-type/zenritusengan/index.html ,(参照2025-03-28).
人種
前立腺がんは国や人種により罹患率に差があり、北米やオーストラリアに多く、日本は少ない傾向です。また、人種は罹患率が高い順に、黒人、白人、黄色人種となります。
食生活
日本在住者よりハワイ在住の日本人の方が罹患率は高いことから、食の欧米化が発症に関与していると考えられます。高脂質・高カロリーの食べ物の過剰摂取はリスクになる可能性が大きいでしょう。
男性ホルモン
前立腺は男性ホルモンの作用により、思春期以降に成長する臓器です。前立腺がんも同じため、男性ホルモンが増殖・成長を促進します。なお、男性ホルモンが直接がんの原因になるわけではなく、あくまでも既にあるがんの成長を促すにとどまります。
加齢
50歳以降から加齢とともに患者数が増加します。一方、45歳以下では患者数が少ないがんです。加齢によりホルモンバランスが崩れることが要因の一つと考えられています。
因果関係が不明な要因
一般的ながんの場合、飲酒・喫煙・肥満が発症リスクを高める要因として挙げられるものの、前立腺がんではまだ因果関係がはっきりしていません。また、最初の性行為の時期や頻度などと発症の因果関係も定かではありません。
前立腺がんの検査方法と診断までの流れ
前立腺がんが疑われるときは以下の流れで検査を行い、がんかどうか調べます。がんの場合は進行度や転移を確認するための検査を実施し、治療方針の決定に役立てます。
- スクリーニング検査
(PSA検査、直腸内触診、
経直腸超音波検査、前立腺MRI検査) - 確定診断(前立腺生検)
- ステージ診断
(画像検査(CT検査・MRI検査)、
骨シンチグラフィー)
各検査の詳細を解説します。
PSA検査
前立腺がんの疑いがあるときは、腫瘍マーカー検査のPSA検査を行います。PSAとは前立腺特異抗原という前立腺で作られるタンパク質の一つです。前立腺組織が壊れると血液中に漏れ出します。
がんや炎症があるとPSAの数値が上がるため、基準値を超える場合、前立腺がんの疑いがあると判断します。
PSAの基準値は以下の通りです。
年齢 | PSAの基準値 |
---|---|
一般 | 4.0ng/mL以下 |
50~64歳 | 3.0ng/mL以下 |
65~69歳 | 3.5ng/mL以下 |
70歳以上 | 4.0ng/mL以下 |
PSAが100ng/mLを超えるときは、前立腺がんの疑いが強く転移も起こっている可能性があります。
直腸内触診
直腸内触診とは、医師が患者さんの肛門に指を挿入し前立腺の状態を確認する検査です。前立腺の背面は直腸に接しているため、触診でがんの疑いや痛みの有無を確認できます。前立腺の表面に凸凹の硬い腫瘍があるとがんが疑われます。
経直腸超音波(エコー)検査
経直腸超音波検査は、肛門からプローブという棒状の機械を挿入しエコー画像を撮り、がんの状態を確認する検査です。前立腺は白く映るものの、がんがあると黒い影ができるため判断できます。なお、経直腸エコーは負担が大きいため、前立腺生検と同時に麻酔をかけて行うこともあります。
前立腺MRI検査
前立腺MRI検査は、通常のMRI検査と同様に磁気を使用し前立腺の断面画像を撮る検査です。がんの疑いの他に、前立腺がんがあるときは場所や大きさ、広がりを確認できます。
前立腺生検
前立腺がんの疑いがあるときは、確定診断の前立腺生検を行いがん細胞の有無を調べます。プローブを挿入し超音波画像を確認しながら、自動生検装置で針を刺し、複数個所の組織を採取します。
なお、針は直腸の他に、肛門と陰嚢の間の会陰部から刺す方法の2種類です。生検後は稀に発熱や出血することがあるため注意しましょう。また、麻酔が必要なことから通常は2~3日入院して実施します。
画像検査(CT検査・MRI検査)
前立腺がんが確定したら、全身のCT検査やMRI検査を行います。X線を使うCT検査では、がんが前立腺内にとどまっているか、全身に転移していないか確認できます。また、MRI検査では前立腺外や精嚢への浸潤の確認が可能です。
骨シンチグラフィー
進行した前立腺がんは骨に転移しやすいため、骨シンチグラフィーを行い、全身の骨への転移を調べます。放射性物質を含む薬剤を静脈注射し、専用の機器で全身の画像を撮影します。がんが骨に転移しているときは、該当部分が黒く映るため特定可能です。
前立腺がんを予防する方法
現在のところ、前立腺がんを予防する有効な方法は確立されていません。一方、日本人を対象にした研究では、以下の生活を心掛けることが、がん全般の予防に効果的とされています。
- ●禁煙
- ●節酒
- ●運動
- ●適正体重の維持
- ●バランスの良い食事
- ●がん検診
たばこを吸っている方は禁煙する、飲酒は日本酒換算で一日1合、ビールであれば大びん1本程度にとどめましょう。また、仕事や趣味を問わず、身体活動が多い方はがんのリスクが低下します。体重はBMIで、男性であれば21.0~26.9、女性は21.0~24.9程度を維持しましょう。なお、BMIは体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m)で求められます。
食生活では、野菜や果物、大豆食品、きのこ類、海藻類、脂質の多い魚を取り入れた食事に前立腺がんリスク低下の可能性が示唆されています。
なお、前立腺がんの検診は、国の政策として行われる対策型検診に含まれていません。そのため、親族に前立腺の診断を受けた方がいるなど、リスクの高い方は自分で受ける必要があります。人間ドックではオプションで前立腺がん検診が含まれることもあるため、活用すると良いでしょう。
【進行度別】前立腺がんの治療方法
前立腺がんには以下のようにさまざまな治療方法があり、これらを単独、または組み合わせて治療を進めます。
治療方法 | 概要 |
---|---|
監視療法 | 定期的なPSA検査や前立腺生検を行い、悪化の兆しがあれば治療を開始する方法です。 |
前立腺がん局所療法 | 前立腺を温存しつつ、がん部分のみを治療する方法です。フォーカルセラピーとも呼ばれます。 |
手術療法 | 外科手術で前立腺と精のうを摘出する方法です。(前立腺全摘除術) |
放射線治療 | 放射線を照射しがんを小さくする方法です。 |
薬物療法 | 薬を使いがんを治療する方法です。男性ホルモンを抑える「ホルモン療法」などがあります。 |
免疫療法 | 体が持つ免疫の機能を応用し、がんを治療する方法です。 |
対症療法 | がんの痛みや副作用を取り除くための治療です。 |
緩和ケア | がんに伴う心身のつらさなどを和らげるための治療やケアです。 |
治療方法は前立腺がんのステージや悪性度、患者さんの年齢や体の状態、希望により選択します。ここでは、ステージ別の治療方法の選択例を紹介します。
ステージ1や2
ステージ1や2はがんが前立腺内にとどまっているため、根治を目指せる状態です。
無症状で他の病気(前立腺肥大など)の診断時に偶然前立腺がんが見つかったときには、治療をせず監視療法にとどめることも多いです。一方、比較的年齢が若い方の場合は、手術療法や薬物療法(主にホルモン療法)、放射線療法などで根治を目指すケースもあります。
がんが前立腺内にとどまっているものの、PSA検査や直腸内触診で見つかる程度に成長しているときは、手術療法、放射線療法、ホルモン療法で根治を目指します。ただし、どの治療方法を選択するかは患者さんの年齢や合併症の状況次第です。
特に手術は身体的負担が大きいため、健康状態が良好な70歳程度までの患者さんが対象です。
ステージ3
ステージ3は、がんが前立腺被膜の外まで広がっているものの、転移は見られない状態です。なお、他の組織への浸潤が見られることはあります。ステージ1や2と比べると、根治が難しい状態です。
ホルモン療法を中心に行い、放射線治療と併用することもあります。手術のみでは治療の効果が低いため、行うときは事前にホルモン療法などでがんを小さくします。
ステージ4
ステージ4は前立腺がんが肺や骨など、遠隔の別の臓器や組織にも転移した状態です。手術のみでがんを取り除くことは困難なため、複数の治療方法を組み合わせることが多いです。
具体的には、ホルモン療法を中心に放射線療法も取り入れ、全身のがんの治療を行います。また、全身の痛みや副作用が生じることも多いため、対症療法や緩和ケアを行うケースもあります。
免疫療法のように全身に作用する治療方法も選択肢の一つです。中でも、患者さん自身の免疫細胞を使い、がんへの攻撃力を高めて体内に戻す「免疫細胞治療」は、副作用を抑えられ、身体的負担が少ない方法です。三大治療(手術療法・薬物療法・放射線療法)との併用も可能で、これらの効果を高める期待もあります。
まとめ:排尿時の違和感は前立腺がんの可能性あり!
前立腺がんは男性に最も多いがんです。初期症状に乏しく、排尿時の違和感など自覚症状が現れたときには、ある程度がんが進行していることもあります。一方、早期に発見できれば根治を目指せるがんのため、違和感があれば見逃さず、すぐにがん検査を受けることが大切です。
がん免疫療法専門医療機関の瀬田クリニック東京では、副作用が少なく全身のがんにも効果が期待できる「免疫細胞治療」を行っています。初期から進行がんまで受診できますので、治療に興味のある方はどうぞお問い合わせください。


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