がん治療には、外科療法・放射線療法・薬物療法といった方法があり、これらをまとめて三大療法と呼びます。その中でも薬物療法は、薬の投与によってがんの進行を抑えたり症状を和らげたりできるもので、単独で用いたり複数の療法と組み合わせたりします。薬物療法はさまざまなメリットがある一方で重い副作用を伴うケースもあり、あらかじめリスクについて把握しておくことが望ましいです。
本記事では、薬物療法のうち抗がん剤を投与する際のリスクの一つ、血管痛について起こる原因や症状、予防・軽減する方法について解説します。血管痛が起きた場合の対処法についてもご紹介しますので、これから抗がん剤治療を行う方はもちろん副作用に悩んでいる方も、ぜひ参考にしてください。
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抗がん剤とは?
まずは、抗がん剤についての理解を深めましょう。先述の通り、抗がん剤は薬物療法の一つで化学療法に分類されます。化学療法は、化学物質によってがん細胞の増殖を抑えて、破壊する治療法です。
抗がん剤は手術療法や放射線療法と異なり、局所的な治療ではなく体全体を治療することが可能です。そのため、手術では治療できない部位のがん細胞を攻撃したり、患者さんの体力や他の病気との兼ね合いで手術や放射線治療が難しい場合でもがん治療を行えたりします。点滴や注射、錠剤などで投薬をするので、日常生活を送ったり仕事を続けながら治療ができ、生活の質(QOL)を保ちやすい点もメリットでしょう。
一方、抗がん剤は副作用が強く出る場合があります。主な症状は発熱や吐き気、だるさ、脱毛、手足のしびれ、血管痛などです。副作用が強く出てしまう理由はさまざまですが、抗がん剤は少なからず正常な細胞にも作用してしまうので、がん以外の細胞の増殖を阻害したり攻撃したりすることが理由だと考えられます。
抗がん剤の副作用で血管痛が起こる原因
先述の通り、抗がん剤を投与する際は内服薬の場合と点滴や注射の場合があります。先ほど触れた副作用の症状のうち、血管痛は静脈に投薬した際に点滴針などを刺す部位やその周辺にひりひりした痛みや違和感を覚える症状です。また赤みや腫れ、つっぱり感、硬さが生じるケースもあり、人によっては耐えるのが困難な痛みになることもあります。
ここでは抗がん剤治療中に生じる血管痛の原因について、解説します。
抗がん剤の製剤的な性質によるもの
血液は、通常pH7.35~7.45と中性に近い弱アルカリ性です(※)。一部の抗がん剤は、血液とpH値が異なるため、酸性やアルカリ性が強い製剤は血管を刺激して痛みや炎症を起こしてしまいます。また製剤によっては浸透圧が高いものがあり、血管内の水分が移動して血管内壁を刺激してしまうこともあります。静脈炎と呼ばれる症状です。
抗がん剤自体が持つ刺激性によっても、血管内壁が傷ついてしまうこともあります。特に乳がんや大腸がん、肺がんなどの治療に使われるものは刺激性が強いといわれています。
※参考:東邦大学 医療センター.「pHってなんだ?」.
https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/kensa/column/column20160823.html ,(参照2025-02-25).
血管がもろくなってしまう
点滴や注射のし過ぎによって、血管がもろくなってしまうことも血管痛の原因の一つです。採血や抗がん剤以外の薬の点滴をするたびに静脈に針を指していると、血管が傷付いて薬が血管外に漏れ出てしまうことがあります。これを「血管外漏出」といいます。
血管外漏出が起きてしまうと、血管だけでなく周囲の組織にも炎症を起こしてしまいかねないので、注意が必要です。抗がん剤の点滴速度や濃度、薬の投与が長いことも血管の収縮や刺激が重なり、血管外漏出の要因になってしまいます。抗がん剤の投与を複数回行っている方や血管が細くてカテーテルを入れにくい方は血管外漏出が起きやすいので、部位が赤く腫れていたりピリピリした違和感があったりする際は、看護師に確認しましょう。
血管痛が起こりやすい抗がん剤
血管痛が起こりやすい抗がん剤を知っておけば、挿入箇所に違和感を覚えた際にすぐに確認ができます。ここでは代表的な製剤をご紹介します。
製剤 | pH | 適用される代表的ながん |
---|---|---|
アクラルビシン塩酸塩 | 5.0~6.5 | 肺がん、胃がん、乳がん、卵巣がんなど |
アムルビシン塩酸塩 | 2.4~3.0 | 肺がん(小細胞がん、非小細胞がん)など |
イダルビシン塩酸塩 | 5.0~7.0 | 急性骨髄性白血病など |
L-アスパラギナーゼ(※) | 6.5~7.5 | 急性白血病、悪性リンパ腫など |
エピルビシン塩酸塩 | 4.5~6.0 | 乳がん、卵巣がん、胃がん、肝臓がん、膀胱がんなど |
ピラルビシン塩酸塩 | 5.0~6.5 | 乳がん、胃がん、膀胱がん、子宮がんなど |
ゲムシタビン塩酸塩 | 2.0~2.8 | 膵がん、胆道がんなど |
※L-アスパラギナーゼは、血管痛や静脈炎が副作用として記載があるものの、適用上の注意には記載がない薬剤
血管痛が起きるタイミング
血管痛を生じるタイミングは原因によって異なります。点滴中に痛みを感じたら、血管外漏出の可能性があります。直ちに点滴を中止して医師の診察を受ける必要があるので、すぐに医師や看護師に知らせてください。そのまま放置しておくと、数時間~数日で状態が悪化し、水泡から潰瘍、そして壊死へと進行するため、早めの処置が必要です。重症化すると、部位がケロイド化してしまう恐れもあります。
また、ジェムザールやダカルバジン、エルプラットといった製剤は、点滴中に痛みを感じやすいです。痛みが気になる場合は、後述する対処法を試してみてください。
静脈炎は投与開始直後から、投与終了後に痛みを感じます。皮膚表面が赤くなったり色が変わったりすると、露出を避けるために長袖を着用せざるを得ないなど、日常生活に影響が出てしまうので、早めに医師に相談しましょう。
抗がん剤による血管痛はいつまで続く?
一度血管痛が生じたら、いつまで続くかは個人差があります。血管の強度や使用する薬剤、投与の方法によっても異なるからです。血管痛により点滴がおっくうになってしまうと、治療への意欲やQOLが下がってしまうので、無理して我慢せずに早めに医師へ相談しましょう。
血管痛が起きたときの対処法
ここからは実際に血管痛が起きたときに取るべき対処法について、ご紹介します。症状や投薬している製剤、痛みを感じるタイミングによっても対処法は異なるので、あくまでも参考として捉えてください。
早急に医師や看護師に知らせる
先述した通り、痛みの原因によっては早急な処置が必要なものもあります。以下のような違和感を少しでも覚えたら、医師や看護師に知らせてください。
- ●痛みがある
- ●燃えるような熱さを感じる
- ●腫れや赤みが出る
- ●つっぱり感や硬さがある
- ●点滴のスピードがいつもよりも遅い
このような症状が出たら、すぐに担当医へ確認しましょう。
穿刺部位や製剤を温める
穿刺部位や製剤を温めて、痛みを緩和できるケースがあります。穿刺部位を温めると血管が拡張して血流が良くなるので、製剤が血管内壁に接触する頻度を下げられるからです。ただし低温やけどのリスクがあるので、温める時間や方法には注意してください。
また、冷たい製剤はホットパックで人肌程度に温めてから投薬すると、痛みが和らぐこともあります。
ステロイドを混ぜてpHを上昇させる
先述した通り、血液は中性に近い弱アルカリ性です。そこで血管内壁への刺激を減らすためにステロイドを混ぜて、製剤のpHを上げる方法もあります。
鎮静剤を服用する
痛みがストレスになってしまう場合は、鎮痛剤を処方してもらうのも方法の一つです。痛みを緩和できれば、日々のストレスも軽減するので、治療へのモチベーションも下がりにくいでしょう。
血管痛を予防・軽減する方法
いくら血管痛が起きたときに対処をしたとしても、痛みによるストレスは無くなりません。そこで、点滴や注射による痛みを予防・軽減するために出来る方法を解説します。
できるだけ穿刺部位を変える
抗がん剤の種類やがんの進行度によっても異なりますが、術前の治療から術後の再発防止まで、半年間で6~20回ほど点滴を行います。このように何度も点滴を打つと、血管がもろくなってしまい血管痛が生じる可能性が高まります。ひじから手先にかけて太くまっすぐ伸びる血管から点滴をしてもらいましょう。また、留置針を指していた静脈や過去に静脈炎を発症した血管への穿刺はなるべく控えてください。
抗がん剤に合わせた対応を取る
いくつかの抗がん剤は痛みが出やすいため、血管痛の予防法が確立しているものもあります。例えばエピルビジンは、点滴した後に部位を冷やすことで血管痛や静脈炎を抑えられます。針が入っていた部位を中心に10cm四方を、保冷材などで冷やしましょう。目安は3日間といわれていますが、詳しくは医師に確認してください。また血管痛が生じている間は、入浴などは避けます。
またダカルバジンという製剤は、光や熱で分解された物質の刺激で血管痛が起こる場合があります。光を通さない袋を被せたり、部屋のブラインドを下ろして照明も消したりして、薬に光が当たらないようにしましょう。
製剤の濃度や量を調整する
抗がん剤の濃度を調整して、血管への刺激を減らす方法もあります。また、点滴時間自体を短くすることで、血管への負担を軽減することも可能です。物理的に点滴時間を減らせば、血管痛自体は軽減できる可能性がありますが、がんの抑制・死滅とのバランスが重要なので、どのような調整を行うかは医師に相談してみましょう。
CVポートやCVカテーテルによって中心静脈から注入する
CVカテーテルとは、鎖骨下静脈や大腿静脈、内頸静脈などからカテーテルを挿入し、先端を中心静脈に留置する方法です。末梢静脈がもろくなってしまった、静脈炎が発症してしまった場合に用いられることもあります。ただし、CVカテーテルは挿入部から体外にカテーテルが出ているため、邪魔にならないよう固定する必要があります。
こういったデメリットが気になる方はCVポートを選択肢に加えましょう。CVポートも中心静脈から製剤を入れられるカテーテルですが、全て体内に埋め込まれているのが特徴です。行動制限が少なく、年単位での使用が可能なので患者さんへの負担が少ないです。ただし埋め込み時と除去時に手術が必要になる点は、留意しておきましょう。
副作用が気になる場合は免疫療法も方法の一つ
抗がん剤による血管痛などの副作用が気になる場合は、免疫療法も治療の選択肢の一つとして考えてみましょう。免疫療法とは、私たちの体が持つ免疫力によってがん細胞を攻撃・排除する治療方法で、第4のがん治療として注目を集めています。免疫療法は患者さん自身の免疫細胞を利用するため、副作用が少ない点が特徴です。また他の治療方法との併用も可能なので、治療効果とQOLを両立できることが期待されています。
ここでは免疫療法のうち、免疫チェックポイント阻害薬を用いる方法と、免疫細胞治療の2つについてご紹介します。
免疫チェックポイント阻害薬
免疫チェックポイント阻害薬とは、免疫ががん細胞を攻撃する力を維持する薬です。2018年に本庶佑さんがノーベル賞医学・生理学賞を受賞した研究から開発された薬としても、有名です。
がん細胞は、正常な細胞に擬態し、免疫細胞に対して「異物を攻撃するな」という命令を送ります。すると免疫細胞は命令に従ってがん細胞への攻撃を止めてしまい、がんの増殖を止めることができず、がん化が進んでしまいます。免疫チェックポイント阻害薬は、この免疫細胞にかかるブレーキを防ぐので、免疫の機能を正しく働かせてがん細胞を攻撃・排除することが可能です。
薬の種類によっては保険診療で受けられるようになり、より身近な治療法となっています。
免疫細胞治療
免疫細胞治療とは、患者さんの血液から免疫細胞を取り出し、培養液で人工的に増殖・加工させ、再び体内に戻す方法です。加工の過程で、患者さんのがん細胞の情報を記憶させることで、体内に戻した際にすぐ体のがん細胞を発見・攻撃を仕掛けることを促せます。また、このサイクルを数回繰り返すことで、免疫力の底上げを図ることが期待されています。
免疫細胞治療は患者さん自身の細胞を利用するため、軽い発熱などのリスクはあるものの副作用が少ないのが特徴です。
ただし保険適用できないケースもあるので、注意が必要です。
まとめ
抗がん剤による治療は、全身のがん細胞に対処できる方法です。また、がんの進行を食い止める作用もあるので、手術療法や放射線療法と併用するケースもあります。ただし、抗がん剤の種類によっては重い副作用を伴うこともあるため、上手に付き合っていく必要があります。
副作用の中でも血管に痛みや腫れ、赤みが生じる血管痛は、ヒリヒリとした痛みから燃えるような熱さまで感じ方は人それぞれなので、治療を続けるのが辛く感じることもあります。血管痛はさまざまな原因によって起こり得るので、原因に合わせた対処法を実践することが重要です。
それでも痛みが辛い方は、副作用の少ない免疫療法を検討してみましょう。瀬田クリニック東京では免疫療法のうち、免疫細胞治療を専門に行うクリニックです。患者さん自身の免疫細胞を利用し、免疫機能やがん細胞の免疫的特性を診断して、複数の免疫療法の中から個別に選択する個別化医療(オーダーメード医療)を提供しています。抗がん剤の副作用にお悩みの方や、オーダーメイドの治療に興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。


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