個別化免疫療法とCancer precision medicine
院長ブログ
本年も、あと、残すところ1週間となってしまいました。
今年は9月から11月までの間、海外から3名の医師、看護師の研修を受け入れていました。そのため、極めて多忙で、今回、久しぶりの院長ブログになってしまいました。研修にご協力いただいた関係者の皆様、こころよく診療の見学にご同意いただいた患者さんに心から感謝いたします。この研修のことはまた、後日、ブログで報告したいと思います。
さて、前回の瀬田クリニック通信ではよくあるご質問⑧「ノーベル賞で話題になったがんの免疫療法と、がん免疫細胞治療は同じ治療ですか?」をテーマに全3回のシリーズで解説を行いました。よくご理解いただけたでしょうか。
がん細胞を攻撃、排除する免疫のしくみは複雑で、T細胞、NK細胞、樹状細胞などの様々な細胞が連携、協力し、役割分担して働いています。実際の体内では①から⑦までの7つのステップでサイクルが回ることでがん細胞の攻撃が効率よく行われています。
このサイクルを如何にうまく回すかが、がん免疫療法の成功の鍵になります。そのためには、単純に1つのお薬、1つの細胞治療だけを用いて治療するのではうまくいきません。私たちは患者さんのがん細胞の免疫的な特徴および体の免疫機能を診断することで、もっとも有効な治療戦略をたてて、個別化された免疫療法を実践してきました。
免疫療法に限らず、がん治療においては、がん細胞の遺伝子変異をみつけ、その遺伝子変異に効果を有する分子標的薬を使用するCancer Precision Medicineが行われつつあります。私たちも免疫療法として、全ゲノム(遺伝子)解析を用いたネオアンチゲンワクチンを取り入れています。今後のがん治療は胃がん、肺がんなどの臓器別に治療法を決めるのではなく、個々の患者のがん細胞の性質をゲノムレベルで解析して、分子標的薬や免疫療法を選択していくことが肝要となっていくと思います。私たちも個別化された免疫細胞治療を含めたCancer Precision Medicineの実践を目指しています。
自由診療による細胞治療によるがんの免疫療法は、再生医療等安全性確保法の下で医療として行われています。細胞加工を企業に委託する場合もありますが、すべては医師の指示の下で行われることになります。自由診療という性格上、そこには医師の高度な倫理観と正確な情報公開が必須です。時に、誤解を招く情報が世間では発信されることもありますが、医療機関は責任を持って、それを是正していかなければなりません。がんの自由診療は真に患者さんのためになる医療として発展させなければなりません。
以上で、今年の私のブログは最後となります。いつも最後までお読みいただきありがとうございます。
新型コロナウイルスも感染者はまだまだ減少しませんが、社会生活は以前に戻ろうとしています。新型コロナウイルスに感染しても、体の免疫によって排除され治癒します。コロナ禍は免疫の大切さが認識されるきっかけになったようです。
みなさま、来年も免疫で病に打ち勝って、お元気にお過ごし下さい。
どうぞ良いお年をお迎えください。
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