免疫細胞治療とオプジーボ® #④
院長ブログ
前回、極少量のオプジーボ®と免疫細胞治療の併用での有効例を論文報告したこと、そのうちの1例を症例紹介しました。その1,その2、その3は下記をご覧下さい。
―免疫細胞治療とオプジーボ® #1―
―免疫細胞治療とオプジーボ® #2―
―免疫細胞治療とオプジーボ® #3―
極少量のオプジーボ®と免疫細胞治療の併用が著効したのですが、どちらの治療が有効であったのかは判断できません。
すなわち、
- 極少量のオプジーボ®のみでも同様の効果が得られた
- 免疫細胞治療のみでも同様の効果が得られた
- オプジーボ®のみ、免疫細胞治療のみでは効果が得られなかったが、極少量のオプジーボ®と免疫細胞治療を併用したことにより効果が得られた
これらの区別はできません。
どれが正しいかは、患者さんをこれら3つの治療グループに無作為に振り分けて比較し、その結果から判断するという方法はありますが、もちろん、このような実験的な研究は私たちにはできません。ただ、この判断にヒントを与えるケースを経験しましたので、報告したいと思います。ケースの詳細はこちらの症例③をご覧下さい。
患者さんは71歳で2020年9月に腎盂がんの診断を受けました。診断時、既に肺や肝臓への転移があり手術の適応がありませんでした。2020年11月より化学療法が開始されました。2021年2月のCTではがんは縮小傾向にありましたが、2021年5月のCTでは腎盂のがんは大きくなり、肝臓には新たな転移が多発してきたため、化学療法は中止となりました。2021年5月からキイトルーダ*による治療が開始され、1回あたり240mgが投与されました。2021年7月のCTでは肝臓の転移が増大していましたが、キイトルーダは継続されました。2021年9月のCTでは肝臓の転移はさらに増大、腎盂のがんも増大しました。そのため、標準治療は終了となり、2021年9月に当院を紹介、受診されました。その後、アルファ・ベータT細胞療法が開始されましたが、4回施行後の2021年12月のCTでは肝臓の転移も腎盂のがんも明らかに縮小していました。さらに3回のアルファ・ベータT細胞療法を施行後の2022年3月のCTではさらにがんは縮小し、画像上はほとんど消失している状態です。
*キイトルーダ;オプジーボ®と同じくPD-1に結合する抗体医薬で、作用機序や治療に使用する用量もほぼ同様の薬剤。
このケースでは単純に考えると、化学療法が無効となり、キイトルーダも無効、アルファ・ベータT細胞療法が有効であったということになります。免疫細胞治療の中で、もっとも基盤的なアルファ・ベータT細胞療法のみが施行されています。当初、樹状細胞ワクチンやNK細胞療法の適応も検討し、進めていくことにしていました。ただし、4回のアルファ・ベータT細胞療法のみで急速にがんは縮小しました。本来、免疫細胞治療により腫瘍を縮小させる効果は抗がん剤などに比べて穏やかです。アルファ・ベータT細胞療法は徐々に効いてきて、がんの進行を抑え、安定の状態を維持することが現実的な効果の目標としています。4回のアルファ・ベータT細胞療法だけで急速な縮小を生じたケースはありますが、とても少ないです。今回はアルファ・ベータT細胞療法のみの効果だけではなく、キイトルーダの併用効果の可能性を考えてみました。
初回のアルファ・ベータT細胞療法は最終のキイトルーダから数えて51日目に施行されています。キイトルーダの半減期(血中のキイトルーダの濃度が半分になるまでの時間)は27.3から18.1日とされています。したがって、240mgのキイトルーダの投与から51日後の時点では、約1/4から1/8、つまり、60mgから30mgを投与した場合と同等の濃度で血中に存在していたと考えられます。この濃度は前回のブログ(免疫細胞治療とオプジーボ® #3)で報告した極少量のオプジーボ®と免疫細胞治療の併用治療で使用した量にちょうど一致します。
このケースは、キイトルーダは無効、アルファ・ベータT細胞療法のみの効果は不明、極少量のキイトルーダとアルファ・ベータT細胞療法の併用で著効ということになります。キイトルーダで無効であっても、極少量のキイトルーダと免疫細胞治療を併用したことにより効果が出る可能性が考えられました。キイトルーダが無効であった場合に、通常、免疫療法は諦めて、治療方針は化学療法あるいは緩和ケアのみとなっています。キイトルーダが無効であっても、さらに免疫細胞治療で良くなる可能性があれば、とても患者さんにとって福音になると思います。今後、その点を明らかにしていく研究を計画しています。
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