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創設者・江川滉二東大名誉教授の“志”Vol.5 民間の治療施設を作りたい

お兄さんへの治療の噂をどこからか聞きつけて、「自分の肉親に免疫細胞治療を受けさせたい」という友人や、「自分の患者にも受けさせたい」という医師など、多くの知人が連絡してくるようになりました。

しかし、そういった申し出を前に、江川先生は悩みました。196903渡米前

この治療法はまだまだ発展途上であり、患者さんの期待にとてもではないが応えられない。 安全性の面からみても、万一の患者さんの容体急変に備える手だても整っていない。お兄さんに対しては充分な理解の上で実施できましたが、赤の他人に対して行うことは時期尚早に思えました。

しかし、頼んでくる患者さんは重い症状の方ばかり。最後の望みとして免疫細胞治療を受けたいと申し出てくださるのに、医療者として何もしないでいいのか。患者さんは待ってはくれません。

色々考えた末に、江川先生は決断します。

「十分な説明のうえで、患者さんが本当に望まれるのなら、たとえ完成度が十分ではない治療法であるとはいっても、理論的に理解可能なものであるのだから、力をつくしてやってみるべきだろう。それをやりながらでなければ、改良していくこともできない。また、患者さんには、それを受ける権利がある」(同書)

そして、お兄さんの時と同じように望まれる患者さん10人ほどに免疫細胞治療を実施しました。

実際の治療は医療機関の協力を得て行っていましたが、江川先生自身が培養したリンパ球を飛行機で運んだりと、江川先生自身にも負担がかかるものでした。心臓の病の後遺症をもつ先生には肉体的にかなりつらいものだったようです。

そこまでしたのは、当時、免疫細胞治療は疑いの目をもって見られがちなものだったため、本気の姿勢を患者さんに対して行動で示す必要があったからだそうです。治す側が本気の姿勢を見せることで、患者さんの治りたいというモチベーションも高まるはずだ。そう江川先生は考えていたのです。

結果としては、残念ながら効果が見えない患者さんもいた一方で、数名の患者さんにおいては末期状態の患者さんの転移巣が縮小したり、数センチのがんが八分の一にまで縮小したり、さらには、少量の抗がん剤との併用ではあったものの余命1~3か月と宣告を受けた末期段階の患者さんが長期旅行に行けるまで回復したという結果を得ました。

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