抗がん剤治療は、がんの治療において重要な選択肢の一つですが、効果や副作用の増加、患者さんの状態によっては、中止を検討しなければならない場合があります。
抗がん剤治療が継続できなくなるケースでは、具体的にどのような基準で中止が判断されるのかを理解することが重要です。本記事では、抗がん剤の中止基準や中止後の選択肢について詳しく解説します。
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抗がん剤を中止する主な基準
抗がん剤治療は、がんの標準治療といわれる薬物療法のうちの一つで、大きな効果を期待できる治療法です。しかし、体への負担が大きく、副作用や全身状態によっては継続が難しくなる可能性があります。
本項では、抗がん剤の中止を検討するときの主な基準について、以下の3つの観点から解説します。
- ●効果の減少
- ●副作用の増加
- ●全身状態の悪化
効果の減少
投薬を始めたときはよく効いていた薬が、やがて効かなくなってしまう。この現象を「薬剤耐性」といい、さまざまな薬で起こります。抗がん剤も例外ではありません。
抗がん剤の効果が出ているかどうかを判断する基準は、主に次の3つです。
- ●血液検査(腫瘍マーカー):
がん細胞から血液に放出される特定物質の量を測る - ●画像検査:
X線やCT検査、MRI、超音波検査などの画像からがんの大きさや広がりなどの状態を調べる - ●自覚症状:
「つらかった症状が改善している」など、患者さんの自覚症状を考慮する
抗がん剤の継続または中止の判断は、これらの結果に治療の目的や患者さん自身の希望などを加味し、総合的に行われます。
なお、抗がん剤の薬剤耐性は、さまざまな原因で起こります。代表的なものは次の5つです。
トランスポーター活性化 | 細胞を包む膜には、ポンプのように薬剤を排出するタンパク質があり、これを「多剤排出トランスポーター」といいます(※)。 がん細胞の中には、多剤排出トランスポーターを活性化させて、投与した抗がん剤を細胞の外に排出してしまうものがあります。多剤排出トランスポーターが薬剤を認識する仕組みなど、詳細はまだ分かっていません。 |
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DNA修復能力向上 | 抗がん剤の中には、がん細胞のDNAを損傷させて効果を発揮するものがあります。DNA修復能力の向上による薬剤耐性とは、がん細胞が自らのDNAを修復する能力を向上させて、抗がん剤を効きにくくしてしまうことです。 |
アポトーシス回避 | 正常な細胞は、DNAが傷つくと自ら消滅します。これが「アポトーシス(細胞死)」です。がん細胞には、アポトーシスを回避する能力を身に着けて、抗がん剤に薬剤耐性を持つものがあります。 |
標的となる分子の変異 | 分子標的薬とは、特定のタンパク質の分子を標的として、がん細胞を狙い撃ちにする抗がん剤です。がん細胞は、標的となるタンパク質の分子を変化させて、薬剤耐性を得る場合があります。 |
微小環境の影響 | 微小環境とは、がん細胞の周りを取り囲む血管や細胞などの環境です。がん細胞と微小環境は影響を与え合い、結果として薬剤耐性を得ることがあります。低酸素環境で活性化し、がん細胞を助ける働きを持つ因子も確認されています。 |
※参考:国立研究開発法人 日本医療研究開発機構.「薬剤耐性の原因「薬剤汲み出しタンパク質」の排出メカニズムを解明―多剤排出トランスポーターMdfAの分子機構―」.
https://www.amed.go.jp/news/seika/kenkyu/20181030.html ,(参照2025-02-21).
副作用の増加
抗がん剤はがん細胞を区別しているのではなく、細胞分裂が旺盛な細胞に対して攻撃します。細胞分裂を盛んに行っている正常な細胞も、その影響を免れられません。これが抗がん剤による副作用の主な原因です。
副作用には、自覚症状で感じられるものと血液検査で判明するものがあり、いずれも抗がん剤の中止を検討する基準として使われます。以下はその一例です。
自覚症状 | 吐き気、アレルギー反応、口内炎、下痢、しびれなど |
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血液検査 | 肝機能・腎機能障害、骨髄抑制(白血球・赤血球・血小板の減少)など |
抗がん剤の副作用には、危険性の高いものとそれほど危険ではないものが存在します。アレルギー反応や骨髄抑制は危険性が高い場合が多く、医師の判断で抗がん剤の投与が中止になるのも珍しくありません。
副作用の症状が強く、QOL(生活の質)が著しく低下している場合は、患者さん自身が抗がん剤の中止を希望するケースもあります。治療への考え方や価値観は人それぞれのため、何を優先してどのような選択をするか、その答えは一概にはいえません。副作用の出方も人によって異なります。
抗がん剤を中止するか続けるかは、簡単には決められない問題です。一人で悩まず、信頼できる医師や看護師などの専門家に相談しましょう。
全身状態の悪化
患者さんの全身状態が悪化し、抗がん剤治療に耐えられない可能性がある場合も、中止するかどうかを検討します。
全身の状態を示すための指標が「パフォーマンス・ステータス」です。これは日常生活の制限の程度を示す指標で、抗がん剤の中止を判断する基準に使われます。パフォーマンス・ステータス指標で3以上に当てはまると、全身状態が悪化していると判断されるようになります。
パフォーマンス・ステータスは以下の5段階に分けられています(※)。
段階 | 特徴 |
---|---|
0 | 日常生活や活動に何の問題も制限もない。発症前と同じ生活が可能。 |
1 | 肉体的に負担がかかる活動はできないが、歩行や軽作業、座ってする作業などはできる。 |
2 | 歩行や身の回りのことはできるが、作業は難しい。日中の半分以上は横にならずに過ごせる。 |
3 | 限られたことしかできない。日中の半分以上を横になるか座って過ごす。 |
4 | まったく動けず、身の回りのこともできない。ずっと横になるか座って過ごす。 |
※参考:Common Toxicity Criteria, Version2.0 Publish Date April 30, 1999.「Performance Status Score」.
https://jcog.jp/assets/C_150_0011.pdf,(参照2025-02-21).
抗がん剤治療を中止した後の選択肢
抗がん剤を中止した後は、主に以下の3つが治療の選択肢です。
- ●緩和ケア
- ●免疫療法
- ●放射線療法
本項では、それぞれの詳細と治療を受ける方法について解説します。
緩和ケア
緩和ケアは、重い病を抱えた患者さんの苦痛を軽減し、その人らしい生活をサポートするためのケアです。医師や看護師に加え、栄養士や臨床心理士など、多岐にわたる専門家がチームを組んでケアを提供します。
緩和ケアの内容
緩和ケアは、病気の告知を受けたときや治療方針を決定するときなど、どの時期からでも始められます。以下は緩和ケアで受けられる内容の一例です。
- ●病気に関する知識を高め、治療法を理解して選択するためのケア
- ●身体的・精神的な痛みを抑えるケア
- ●痛み以外のつらさを和らげるケア
- ●食事や睡眠といった、普段の生活を取り戻すためのケア
- ●精神的な健康を維持するためのケア
- ●患者さんのご家族へのケア
- ●自宅で緩和ケアを受けるための準備
緩和ケアを受けるには
緩和ケアは、外来、入院、在宅のいずれの形態でも受けられます。どこで緩和ケアを受けられるかについては、まず、かかりつけの医師にご相談いただくか、病院の緩和ケアチームにお問い合わせください。
通院しながら緩和ケアを受ける場合は、現在治療を受けている病院の緩和ケア外来を受診できる他、かかりつけ医以外の病院の緩和ケア外来を受診することも可能です。
入院して緩和ケアを受ける場合は、かかりつけの病院の一般病棟で緩和ケアを受けられるだけではなく、緩和ケアを専門とする緩和ケア病棟に入院することもできます。緩和ケア病棟への入院を希望される場合は、できるだけ早い段階で担当医にご相談されることをおすすめします。
また在宅で緩和ケアを受けることも可能です。在宅での緩和ケアでは、訪問診療や訪問看護といった在宅サービスとの連携が重要になります。通院中や入院中の患者さんであれば、病院のスタッフが関係機関への連絡やサービス調整をサポートいたします。
介護施設などに入所されている患者さんも、訪問診療による緩和ケアを受けられる場合があるため、まずはご相談ください。
免疫療法
免疫とは、体内に侵入した異物を取り除き、体を病気から守る機能です。免疫療法では、患者さんに備わっている免疫機能を利用してがんを治療します。
主な免疫療法の仕組みには、以下の2種類があります。
- ●患者さん自身の免疫細胞を活性化させる
(免疫力を高める) - ●がん細胞が免疫機能を妨害するのを防ぐ
(がん細胞の抵抗力を弱める)
免疫療法のメリットとデメリット
免疫療法にも、他の治療法と同様に、メリットとデメリットがあります。
免疫療法のメリットとしては、まず抗がん剤と比較して副作用が少ない点が挙げられます。体への負担が少ないため、ご高齢の患者さんや体力が低下している患者さんでも治療を受けやすいのが特徴です。また多くの場合、入院の必要がないこともメリットといえるでしょう。
一方、免疫療法のデメリットとしては、一部の治療法を除いて健康保険が適用されないことが挙げられます。そのため治療費が高額になる可能性があることを考慮しなければなりません。
放射線療法
放射線療法は、がんができている部分に放射線を当てる治療法です。通常は、放射線発生装置で作られた放射線を、体の外側から照射します。放射線療法は手術療法、薬物療法と並ぶ「がん治療の3本柱」の一つとされています。
放射線療法のメリットとデメリット
放射線療法にも、他の治療法と同様にメリットとデメリットがあります。
放射線療法のメリットは、手術と比較して全身への負担が大幅に少ないことです。そのため、ご高齢の患者さんや、合併症などの理由で手術が困難な患者さんでも治療を受けることができます。また、がんが発生した臓器の形態や機能を温存できる可能性が高く、治療後のQOL(生活の質)を維持しやすいことも大きなメリットです。
一方、放射線療法のデメリットとしては、放射線を照射した部位に副作用が生じやすいことが挙げられます。例えば、皮膚炎や粘膜炎、倦怠感など、照射部位によってさまざまな副作用が現れる可能性があります。
また、一度に照射できる放射線の量には上限があるため、がんの種類や進行度によっては、十分な効果が得られない場合があることも考慮しなければなりません。
放射線療法は、主に主治医から治療の一環として勧められています。治療に当たっては、放射線腫瘍医の診察、治療の方法、期間、予想される副作用などの説明を受けましょう。
免疫療法の役割
免疫療法は前述した通り、人間が持つ免疫機能の力を利用してがんを攻撃する治療法です。手術・薬物・放射線に続く第4の選択肢ともいわれています。
本項では、免疫療法が果たす役割と、その種類について解説します。
免疫療法の役割
がん治療において免疫療法が果たす役割は、大きくなっています。免疫療法は、抗がん剤治療の効果が不十分な場合や、副作用のために治療継続が難しい場合など、新たな治療の選択肢となり得るでしょう。
また免疫療法は、がんの種類や進行度合いによっては、抗がん剤治療など他の治療法と組み合わせることで、より高い治療効果が期待できる可能性もあります。
免疫療法は、がん治療の可能性を広げる重要な選択肢の一つとして、今後ますます注目されていくでしょう。
免疫細胞治療
免疫細胞治療とは、患者さんの体の中にある免疫細胞を取り出し、培養・加工をして体内へ戻す治療法です。治療のステップは以下の通りです。
- 取り出した免疫細胞を培養して数を増やす
- 免疫細胞が効率的にがん細胞を攻撃できるよう加工する
- 注射や点滴で体内に戻す
- このサイクルを数回繰り返す
免疫細胞治療は、患者さん自身の体の中にある免疫細胞を使うため、大きな副作用がありません。標準治療(手術、抗がん剤、放射線治療)との併用も可能です。標準治療は免疫状態によって結果が大きく左右されるため、免疫細胞治療が標準治療の効果を高めてくれることも期待できます。
免疫細胞治療には、次のような種類があります。
樹状細胞ワクチン | 「樹状細胞」は、T細胞という免疫細胞にがん細胞の目印を伝え、攻撃を促します。樹状細胞ワクチンは、樹状細胞にがんの目印を取り込ませて体内へ戻し、T細胞にがんを攻撃するよう指示し撃退する治療法です。 |
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NKT細胞療法 | 「NKT細胞」は、がん細胞を抑制するためのさまざまな働きを持つ免疫細胞です。NKT細胞療法は、この細胞を活性化・増殖させることを目的とした治療法です。 |
アルファ・ベータT細胞療法 | がん細胞への攻撃力がとても高い「T細胞」を活性化・増殖させてから体内へ戻す治療法です。がん細胞の目印が分からない、がん細胞が免疫機能を抑制しているなど、幅広い場面で適用できます。 |
2DG・キラーT細胞療法 | アルファ・ベータT細胞療法の改良版というべき治療法です。がん細胞への攻撃機能が向上し、さらにがん細胞による免疫抑制も回避できます。高い効果が期待できる治療法です。 |
ガンマ・デルタT細胞療法 | 細胞の変化をいち早く感知して攻撃する「ガンマ・デルタT細胞」を用いた免疫細胞治療です。大学病院で臨床研究が行われたり、その成果が論文として発表されたりと、期待を集めている治療法です。 |
NK細胞療法 | 極めて強い細胞殺傷能力を持つ「NK細胞」を大幅に増幅・活性化して体内に戻す免疫細胞治療です。 |
これらの免疫細胞治療は、患者さんのがん細胞や免疫細胞の状態、患者さんの状況に基づいて使い分けられます。
免疫細胞治療は公的保険の対象ではなく、自由診療です。ただし医療費控除や民間のがん保険などが適用される場合があります。
まとめ
抗がん剤を中止する際は、効果や副作用、全身状態などを総合的に見て、ケースバイケースで判断します。抗がん剤中止の検討は慎重に行わなければなりません。担当医や看護師に相談しながら、さまざまな角度から検討しましょう。
患者さんの状態やがん細胞の性質はそれぞれ異なるため、「誰にでも同じように効く治療法」は存在しません。瀬田クリニック東京では、一人ひとりに応じて免疫療法を使い分ける「個別化医療(オーダーメイド医療)」を行っています。オンライン治療説明会なども定期的に実施しておりますので、ご興味のある方はぜひお気軽にお問い合せください。


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