臨床症例報告No.36 (PDF版はこちら アルファ・ベータT細胞療法により進行が観察されるも、ガンマ・デルタT細胞療法により長期安定が得られている肺腺がん症例 瀬田クリニックグループ/ 瀬田クリニック東京  後藤 重則

  • 種類:肺

INTRODUCTION

Tリンパ球はその受容体からアルファ・ベータT細胞(αβT)、ガンマ・デルタT細胞(γδT) の2つのサブセットが存在し、マイナーな群であるγδTが抗腫瘍免疫応答に深い関わりを持つことが報告されている。Aminobisphosphonatesは細胞のメバロン酸代謝経路を阻害し、その結果Isopentenyl Pyrophosphate(IPP)が蓄積されるが、それをγδT細胞が認識し、活性化、増殖することが知られている。Aminobisphosphonatesは転移性骨腫瘍などに使用される薬剤で、その薬理作用は破骨細胞を抑制することで転移したがん細胞による溶骨を抑えることと考えられてきたが、γδT細胞の誘導が抗腫瘍効果に関与していることが報告されてきた。われわれはゾレドロン酸とインターロイキン-2を用いてγδTを選択的に培養、増殖させる技術を確立した 1)。培養により得られた総細胞数の平均値は4.1± 2.8 × 109、γδT率は56 ± 33%、γδT数は2.6 ± 2.4 × 109であった。このγδT数は患者全末梢血中に存在するγδT総数の30倍以上に匹敵する。多発性骨髄腫あるいは非小細胞性肺癌などへの臨床応用を進め、その安全性、免疫学的作用、臨床効果など観察した1-3)。今回、手術不能のIIIb期の肺腺がんに対してアルファ・ベータT細胞療法を行うがPDを観察し、その後、ガンマ・デルタT細胞療法(γδT-LAK) を施行、化学療法も併用し長期間、進行なく経過している症例を経験し報告する。

CASE

症例は68歳、女性、2006年検診にて異常陰影あり、精査したところ、肺がん、moderately differentiated adenocarcinoma、CTにて胸膜播種、対側縦隔リンパ節転移あり、cT4N3M0、Stage IIIbの診断を受けた。同年5月、化学療法(CBDCA+PTX)を開始、2007年6月まで行うも、SDのため、一旦、終了となり2007年9月当院初診する。10月よりアルファ・ベータT細胞療法の単独治療を開始、12月19日に1 コース終了するが肺腫瘍はPDであったため、治療を終了として経過観察していた。化学療法の再開も勧められたが、2008年3月、ご本人の希望もありγδT-LAK単独での治療を開始した。2008年11月のCTまで肺腫瘍はほぼSD、CEAの上昇なく経過した。2009年4月CTにてPDの所見、CEAの漸増あり、5月より化学療法(DTX単剤) を再開することとなった。9月のCTにてPRを観察し、化学療法を終了、γδT-LAK単独とする。2010年1月に腫瘍マーカー値の上昇傾向あり、1月から4月まで化学療法(MTA単剤)、その後、2011年7月現在まで1 年3ヶ月間、γδT-LAK単独で治療、SDを維持、腫瘍マーカーも安定して経過している。

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DISCUSSION

近年、γδTが骨髄腫やリンパ腫あるいは一部の固形がんに対して強い細胞傷害活性を有することが報告されている。われわれも2008年よりγδT-LAKを臨床応用してきている。対象は主に原発性、転移性骨腫瘍、ゾレドロン酸あるいは抗体医薬使用例、また、アルファ・ベータT細胞療法の無効例である。本症例はアルファ・ベータT細胞療法では進行が観察されるも、その後、一部の時期は化学療法の併用を行うも長期にわたって、安定を観察している。一部、化学療法も併用されているがDTXあるいはMTA単剤で比較的に副作用も少なく、QOLを維持している。がん患者での末梢血のγδT数は健常人に比較して有意に減少しているが、γδT-LAKにより有意な増加を生じる3)。本症例の治療前のγδT数の測定は残念ながら行われていないが、17回および26回のγδT-LAK施行後の末梢血のγδT(CD3TCRVγ9)数は、各々、189cells/μL、158cells/μLであった。健常人の平均値は48±51cells/μLであり、おそらくγδT-LAKによって十分な増加が生じていたことが推定された。

REFERENCES

1. Noguchi A et al.; Zoledronate-activated Vγ9γδ T cell-based immunotherapy is feasible and restores the impairment of γδ T cells in patients with solid tumors. Cytotherapy; 13: 92-7. 2011
2. Abe Y, Muto M, Nieda M, Nakagawa Y, Nicol A, Kaneko T, et al. Clinical and immunological evaluation of zoledronate-activated Vgamma9gammadelta T-cell-based immunotherapy for patients with multiple myeloma. Exp Hematol;37:956-68, 2009
3. Nakajima J, et al.; A phase I study of adoptive immunotherapy for recurrent non-small-cell lung cancer patients with autologous gammadelta T cells. Eur J Cardiothorac Surg,.37: 1191-7, 2010

  • がん免疫細胞治療について
    がん免疫細胞治療とは、身体のなかでがん細胞などの異物と闘ってくれる免疫細胞を患者さんの血液から取り出し、人工的に数を増やしたり、効率的にがんを攻撃するよう教育してから再び体内へ戻すことで、免疫の力でがんを攻撃する治療法です。この治療は患者さんがもともと体内に有している免疫細胞を培養・加工してがんを攻撃する点から、他の治療のような大きな副作用はなく、また抗がん剤や手術、放射線治療など他の治療と組み合わせて行うこともできます。治療の種類にもよりますが基本的には2週間おきに採血と点滴を繰り返す治療となります。当院では、治療に用いる細胞の違いや培養方法の違いにより、樹状細胞ワクチン療法、アルファ・ベータT細胞療法、ガンマ・デルタT細胞療法、NK細胞療法の四つの治療法を提供しています。
  • リスク・副作用について
    免疫細胞治療は患者さん自身の免疫細胞を治療に用いるので、軽い発熱、発疹等が見られる場合がありますが、それ以外は重篤な副作用は見られず、身体への負担がほとんどありません。副作用が少ないため、生活の質、いわゆるQOL(=Quality of Life)を維持しながら治療を続けることも可能です。
  • 費用について
    治療にかかる費用は、1クール6回~12回投与)実施の場合、治療法にもよりますが¥1,620,000~¥2,691,360が目安となります(初診料、検査費用等は除く)。