臨床症例報告No.34 (PDF版はこちら ドセタキセルが無効であった内分泌療法抵抗性前立腺癌に対して免疫細胞治療(γδT-LAK およびαβT-LAK)が著効した症例 瀬田クリニックグループ/瀬田クリニック大阪  寺尾 秀治

  • 種類:前立腺

はじめに

PSA検査の普及により本邦における前立腺癌の罹患率は年々増加しており、2020年には男性癌で肺癌に次いで第2位になると予測されている。早期前立腺癌の予後は比較的良いが、内分泌療法抵抗性前立腺癌に対する治療成績は不良である。欧米では内分泌療法抵抗性前立腺癌に対する治療として、ドセタキセル+エストラムスチンやドセタキセル+ プレドニゾロンを用いた抗癌化学療法が行われており、生命予後の延長効果が認められている。
本邦では、2008年8月にドセタキセルが前立腺癌に対する保険適応を得て以来、内分泌療法抵抗性前立腺癌に対する標準的な抗癌化学療法の中心を担うようになった。しかし、ドセタキセル無効例に対する有効な治療法は確立されていないため、新規治療法の開発が望まれている。今回我々は、ドセタキセル無効例の内分泌療法抵抗性前立腺癌に対して免疫細胞療法を施行した結果、PSAの劇的な改善を認めた症例を経験したので報告する。

症例

症例は68歳男性。家族歴、既往歴は特記すべきことなし。現病歴は、2006年11月2日に前立腺生検施行(PSA;138 ng/ml)。病理組織学診断にて、adenocarcinoma(Gleason score;4+5=9)であった。また、画像所見では、上腕骨骨転移と傍大動脈リンパ節転移を認め、Stage D2の診断にてホルモン療法を開始した。その後いったんPSA値は低下したが、2009年1月より再度上昇を認め、内分泌療法抵抗性前立腺癌と診断し、4月28日より抗癌化学療法(ドセタキセル+エストラムスチン)を開始した。
その後、2009年10月ごろよりPSA値が再上昇し、2010年6月からデカフール・ウラシル+シクロフォスファミド+デキサメタゾンに変更したがPSA値は上昇したため、7月8日に免疫細胞療法を希望して当院初診となった。
初診時は、PS0で、全身倦怠感と左上腕の疼痛があった。CT等の画像所見では評価可能病変を認めなかったが、PSAは14.09ng/mlと上昇傾向を認めた。内分泌療法抵抗性前立腺癌と診断し、7月28日より免疫細胞療法を開始した。免疫細胞療法のスケジュールは、まずガンマ・デルタ(γδ)T 細胞療法を3回施行し(7月28日、8月18日、9月8日)、その後アルファ・ベータ(αβ)T細胞療法を約2週間間隔で施行した。治療前まで上昇傾向にあったPSA値(14.09 ng/ml) は、γδT細胞療法施行後に低下し(3.62ng/ml)、その後のαβT細胞療法施行中も低下し続け、2011年3月22日時点で感度未満(< 0.01 ng/ml) となった。一方、全身倦怠感と左上腕の疼痛については、PSAの低下に伴って症状の消失が認められた。
2011年6月15日時点で、デカフール・ウラシル+シクロフォスファミド+デキサメタゾンの服用と約2週間間隔のαβT細胞療法を継続中で、PSA値は感度未満であり、特に自覚症状も認めていない。

考察

本症例では免疫細胞療法として、まずγδT細胞療法を3回施行しその後αβT細胞療法を施行した。免疫細胞療法を導入した直後よりPSA値の劇的な低下を認めたことから、治療初期に施行したγδT細胞療法への反応性が非常に高かったと考えられる。また、その後のαβT細胞療法への反応性も非常に高かったことや、主なPSA産生細胞と考えられる左上腕骨転移巣に一致した部位の疼痛が免疫細胞療法施行期間中に軽快したことから、γδT細胞療法による局所ならびに全身性の抗腫瘍効果を契機に自然免疫と獲得免疫が新たに発動した可能性が示唆された。同様の機序は、放射線療法や抗癌化学療法と免疫細胞療法との併用療法でも期待されるところであり、腫瘍マーカーや画像所見などの臨床データと免疫細胞療法への反応性を注意深く観察し、適切な治療法を選択することが治療効果の長期継続に繋がると考えられた。

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