臨床症例報告No.32 (PDF版はこちら 非ウイルス性肝細胞癌術後骨・リンパ節転移のCR例 瀬田クリニックグループ/瀬田クリニック新横浜 院長  金子 亨

  • 種類:肝臓

Introduction

肝細胞癌の原因として、B型肝炎に起因するものは約18%、C型肝炎に起因するものは約69%であり、約15%が非ウイルス性のものである。単発や限局で肝切除手術が施行できた例の5年生存率は52.3%(第15回全国原発性肝癌追跡調査)とあるが、術後に再発や転移を認めた症例の予後は不良である。

Patient and present illness

49歳の男性、家族歴・既往歴に特記すべき事項なし。2006年10月の会社検診時に超音波にて肝腫瘍を指摘され、精査の結果、肝細胞癌と診断された。同年11月21日に肝左葉切除手術を施行、病理組織検査では非ウイルス性、中~低分化肝細胞癌の診断であった。術後、2007年1月22日より、肝動注化学療法(シスプラチン(CDDP)および5-FUを使用)を開始したが、副作用が強く、3月19日の7回目で終了となった。その後4月23日のCTと5月31日の骨シンチグラフィにて左仙骨転移が判明した。

Treatments and clinical course

2007年6月14日に当院を初診し、放射線治療とαβT細胞を用いた免疫細胞療法の併用を計画した。
 同年6月28日より8月1日まで50Gyの照射を実施した後、8月24日のCTで縦隔リンパ節転移が判明、10月4日より11月20日まで60Gyの照射を実施した。この間、アルファ・ベータT細胞療法は2007年6月30日、7月14日、7月28日、8月18日、9月1日、9月15日、10月6日、10月20日、11月10日、12月1日、12月15日の計11回の投与を施行した。
同年12月1日の腫瘍マーカー値はAFP:1.9、PIVKA-Ⅱ:18と正常値であった。
12月4日のPET検査では放射線治療後の左仙骨および縦隔リンパ節にも異常所見なく、新たな転移を疑わせる異常集積を認めなかったが、今後の再発・再燃予防を目的にTS-1内服(4週内服2週休薬)とCDDP点滴による抗癌剤療法を計画され、この抗癌剤療法の休薬期間にαβT細胞による免疫細胞療法の併用を行なった。
2008年1月17日より抗癌剤治療を開始し、アルファ・ベータT細胞療法は同年1月12日、2月9日、3月29日、5月17日、8月2日、11月15日、2009年3月7日、7月18日、11月21日、2010年2月20日と10回の追加投与を実施し、今後も継続予定である。
2009年2月28日および2010年1月26日のPET-CT検査でも放射線治療後の左仙骨および縦隔リンパ節にも異常所見なく、肝内再発ならびに肝外の新たな転移を疑わせる異常集積も認めなかった。すなわち2007年12月のPETでCRを確認してから、2年2カ月に渡ってCRを維持している。

Discussion & Conclusion

本症例は血行性の骨転移ならびに縦隔リンパ節転移などの遠隔転移を来した進行性肝細胞癌であり、局所的な放射線治療のみでは次々に新たな転移巣が出現し、予後不良となることが多い。放射線治療によってアポトーシスを生じた腫瘍細胞はがん抗原の発現が増強されることや、局所的な放射線治療が遠隔転移巣に対して免疫細胞療法の効果を相乗的に増強することなども報告されている1)。また、アルファ・ベータT細胞療法を継続することにより、腫瘍特異的なCTLの誘導が促されたケースも報告されている2)。これらが、他部位の転移再発の抑制に有利に働いた可能性も考えられる。遠隔転移を伴った症例においても、放射線治療を併用した免疫細胞療法が有効な治療法となりうる可能性があり、今後、症例を重ね検討して行きたい。

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References

1) Dybal EJ, Haas GP, Maughan RL, et al.: Synergy of radiation therapy and immunotherapy in murine renal cell carcinoma. J Urol Oct;148(4):1331-1337, 1992
2) Kawamura A, Sekine T, Sekiguchi M, et al.: Six-year Disease-free Survival of a Patient with Metastatic Eyelid Squamous Cell Carcinoma and Colon Adenocarcinoma after Repeated Postoperative Adoptive Immunotherapy; Jpn J Clin Oncol, 30(6), 267-271, 2000.