臨床症例報告No.31 (PDF版はこちら 進行膵臓癌手術後、アルファ・ベータT細胞療法単独にて長期(8年間)無再発が得られた例 瀬田クリニックグループ/ 瀬田クリニック新横浜  田中 寅雄

  • 種類:すい臓

Introduction

わが国における膵臓癌の罹患数、死亡数は、ともに増加している。膵臓癌の平均的な予後は1年未満であり、5年生存率は5-10%ときわめて不良である。外科的切除が唯一の根治療法であるが、高率に再発を認めることから化学療法などの手術後補助療法が求められている。手術後の化学療法としてはゲムシタビン(以下GEM)はじめ種々の抗癌剤が用いられているが、その効果は十分ではない。今回われわれは、進行膵臓尾部癌に対して免疫療法単独で長期無再発を得た症例を経験したので報告する。

Case

76歳男性、2001年9月背部痛出現精査。同年10月18日腹部CTで膵臓尾部に直径5cmの腫瘍を認め、脾臓に浸潤と壊死を認める(Figure1)、各種画像診断の結果、膵臓尾部がんと診断、手術前腫瘍マーカーはCA19-9:7.5、CEA:4.5、Dupan-2:25と正常範囲内であった。
同年11月16日手術:腫瘍直径5cm、TS2浸潤型A2、N2(+)、胃後壁・脾臓・横行結腸に浸潤し一部壊死、病理papillary adenocaricinoma, intermediate, ly3 INFγ,v1, ne3, s1, rp1, 腹水classIV、StageIVb、根治度Cの切除であった。術後化学療法をせず、2002年2月当院初診、相談の結果、アルファ・ベータT細胞療法を2月20日から2週間間隔で来院して2002年4月17日まで6回施行。2002年4月23日腹部CTで腫瘍再発なく(Figure2)。四国在住のため以降は、近医と連携して施行、治療間隔を徐々に延長し、7回目から2002/6/4、6/18、7/16、8/20、9/10、10/8、11/6、と施行。2003年2月6日CTでは、腫瘍再発なく、2003年1月22日の14回目からは3カ月に1回程度:2003/5/7、8/6、11/5、2004/2/4、5/13と施行し、終了した。その後、再発の徴候はなく、2003年8月7日(手術後1年9カ月)の腹部CTで腫瘍再発なしと判断された。(Figure3)その後近医で経過観察されているが2010年5月(手術後8年6カ月)の時点で、腫瘍マーカーはCEA:4.4、CA19-9:2.2と正常範囲内で、再発は見られていない。

Discussion

膵臓癌は,全体の5年生存率が5-10%ときわめて予後不良のがんである。中でも膵臓尾部がんは症状に乏しく、進行した状態で診断される場合が多く、さらに予後が不良である。本例でも診断時に直径5cm大であり、脾臓、胃後壁、結腸への浸潤があった。膵臓癌では、切除手術が唯一の根治治療だが、高度に再発を認める。本例は手術時に周囲に浸潤し進行した状態で、手術の困難な手術根治度がC のpapillary adenocarcinomaであることから、5年生存はほとんど望めないケースであると考えられる。GEMなどの化学療法も施行せず、5年間無再発生存を認めたのはアルファ・ベータT細胞療法が有効に作用したものと思われる。進行膵臓癌に対するアルファ・ベータT細胞療法の成績は少ないが、Kanekoらによれば、遠隔転移のない膵臓癌20例の解析で、免疫細胞治療単独ではPR+CR:14.3%、GEM併用免疫細胞療法で15.4%との報告がある。免疫療法単独で長期間寛解を得た一例を経験した。今後、化学療法と免疫療法併用による症例の蓄積が望まれる。

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References

1. Kaneko T, et al : Efficancy of Immuno-cell Therapy in Patients with Advanced Pancreatic Cancer. Anticancer Res 25 : 3709-3714 , 2005.
2. Burris HA 3rd, et al:Improvements in survival and clinical benefit with gemcitabine as first-line therapy for patients with advanced pancreas cancer : a randomized trial. J Clin Oncol 15:2403-2413,1997.
3. Neoptolemos JP,et al : A randomized trial of chemoradio therapy and chemotherapy after resection of pancreatic cancer. N Engl J Med 350 : 1200 - 1210, 2004.
4. Ueno H, et al : A randomised phase  trial comparing gemcitabine with surgery-only in patients with resected pancreatic cancer : Japanese Study Group of Adjuvant Therapy for Pancreatic Cancer. Br J Cancer 101:908-915, 2009.
  • がん免疫細胞治療について
    がん免疫細胞治療とは、身体のなかでがん細胞などの異物と闘ってくれる免疫細胞を患者さんの血液から取り出し、人工的に数を増やしたり、効率的にがんを攻撃するよう教育してから再び体内へ戻すことで、免疫の力でがんを攻撃する治療法です。この治療は患者さんがもともと体内に有している免疫細胞を培養・加工してがんを攻撃する点から、他の治療のような大きな副作用はなく、また抗がん剤や手術、放射線治療など他の治療と組み合わせて行うこともできます。治療の種類にもよりますが基本的には2週間おきに採血と点滴を繰り返す治療となります。当院では、治療に用いる細胞の違いや培養方法の違いにより、樹状細胞ワクチン療法、アルファ・ベータT細胞療法、ガンマ・デルタT細胞療法、NK細胞療法の四つの治療法を提供しています。
  • リスク・副作用について
    免疫細胞治療は患者さん自身の免疫細胞を治療に用いるので、軽い発熱、発疹等が見られる場合がありますが、それ以外は重篤な副作用は見られず、身体への負担がほとんどありません。副作用が少ないため、生活の質、いわゆるQOL(=Quality of Life)を維持しながら治療を続けることも可能です。
  • 費用について
    治療にかかる費用は、1クール6回~12回投与)実施の場合、治療法にもよりますが¥1,620,000~¥2,691,360が目安となります(初診料、検査費用等は除く)。