臨床症例報告No.26 (PDF版はこちら TS-1抵抗性の再発胃がんに対して免疫細胞療法(CD3-LAK療法)と漢方療法による寛解例 瀬田クリニックグループ/ 瀬田クリニック 院長  後藤 重則

  • 種類:胃

Introduction

進行胃がんに対してはTS-1 をはじめとした有効性の高い化学療法剤が登場して、その予後も改善しつつある。しかし、化学療法抵抗性の場合は他に標準治療法がなく、Best supportive care (BSC) となることが多い。今回、4期胃がんのリンパ節転移再発症例に対して免疫細胞療法を施行し、寛解を観察している症例を報告する。

Case

症例は74歳、女性、既往歴として喘息、高血圧にて内服中であった。2001年5月より胃重感あり、精査、胃がんの診断にて同年6月18日幽門側胃切除術、B-IIを施行された。T2N3H0P0M0、Poorly differentiated adenocarcinoma(por1),v1,ly3,StageIVであった。術後は経過観察されていたが、2003年10月より腫瘍マーカーの上昇と旁大動脈リンパ節の腫脹を観察し,TS-1による治療が開始された。治療により腫瘍は寛解したが、2005年10月に腫瘍マーカーは再上昇し、また、腹部CTにて旁大動脈リンパ節に再燃を生じた(Figure1A,B)。副作用としての下痢、嘔気も強く、また、体重減少も著明でTS-1は中止となり、BSCとなった。2005年11月より漢方治療を開始したが、2006年1月18日のCTでは新たなリンパ節転移の出現、増大を観察し(Figure2A,B)、左鎖骨上リンパ節への転移も出現した。2006年3月24日に当院を初診した。初診時、PSは0、左鎖骨上に硬いリンパ節の腫脹を触知した。他医にて処方されていた漢方療法は継続し、当院にて活性化自己リンパ球療法(CD3-LAK療法)を2週間間隔で行うこととし、4月7日より開始した。6月20日までに6回の治療を施行、また、本人の意思で福島県のラジウム温泉へ定期的に旅行した。その間、CA19-9は漸減傾向を示し、また、触診上、鎖骨上リンパ節は縮小し触知できなくなった。7月3日にCTを施行、多発性旁大動脈リンパ節転移の寛解を観察した(Figure3A,B)。その後は約6週間間隔で現在まで治療を継続しており、全身状態、食欲も良好で経過している。

Discussion

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瀬田クリニックグループでの直接効果による治療成績の解析は、1クール(6回)の治療前後における画像の評価が基準を満たした方法で行われた症例のみを対象として行っている (/dr/pdf/setaclg_s.pdf)。
治療開始前60日以内、6回目の治療後30日以内で画像評価が行われたことを最低限の基準としておいている。本例は治療開始前に行った画像診断(CT)は2006年1月18日と治療開始日(4月7日)より60日以上前のため、治療成績の解析対象に含まれることはないが、経過より治療が有効であったと考えられる。また、漢方薬や温泉療法など、通常は抗腫瘍効果を有しないと考えられている非通常療法については化学療法などの標準治療の効果解析においても無視されることが多いが、レトロスペクティブな効果解析においては、上記の点を含めた様々なバイアスが生じる可能性があり、集計された数字による結果だけではその評価、判断は難しい。1例ごとでの詳細な報告はそれを補う意味もあり、今後もその観点からもケースレポートを継続していきたい。

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