臨床症例報告No.24 (PDF版はこちら 肝細胞がん再発例に対する免疫細胞療法(CD3-LAK療法)による6年間の治療経過 瀬田クリニックグループ/ 瀬田クリニック 院長  後藤 重則

  • 種類:肝臓

Introduction

肝細胞がんはウイルス性肝炎、肝硬変を背景として発症することが多く、HCV陽性者が約70%を占める。
治療法としては肝切除、肝動脈塞栓療法(TAE)、エタノール注入(PEIT)あるいはラジオ波焼灼療法(RFA)が行われるが、再発、特に肝内再発が多く、再発例の長期予後は不良である。再発例に対しては治癒を望むことは通常、困難であり、治療の目標は腫瘍の縮小効果などの直接効果ではなく、あくまでも長期予後としての生存期間の延長およびQOLの維持である。今回、肝内再発を繰り返した症例において免疫細胞療法により長期間にわたり無増悪を観察し、現在まで6年間にわたり良好なQOLを維持している症例を報告する。

Case

症例は63歳、女性、1983年にC型肝炎と診断され、フォローされていたが、その後、肝硬変となり、肝細胞がんを発病した。1996年PEITを受けるも、その後、肝内再発し、肝切除術が施行された。術後、経過観察されていたが2000年5月に肝内に新病変が出現した(Figure1)。2000年6月に当院を初診、活性化自己リンパ球療法(CD3-LAK法)単独による治療を2週間隔で開始することとした。初診時の血液検査所見ではAFP38ng/ml、PIVKA-II26mIU/ml、GOT102IU/L、GPT65IU/L、TB0.7mg/dl、白血球3200/μL、血小板5.6万/μLであり、AFPの軽度の上昇、肝機能障害、血小板の低下を観察した。2000年9月までに6回、1コースの治療を終了、同年、10月のCTではStable Disease(SD)であった。その後、4週間隔で治療を継続、2コース12回の治療が終了した2001年4月23日のCTでは腫瘍径は不変(SD)であったが、腫瘍の内部のDensityの低下が観察され、腫瘍の中心部の壊死を示唆する所見であった(Figure2)。その後もCTでの観察を続けながら、4週間隔での単独治療を継続した。肝腫瘍および肝機能は長期にわたりほぼStableで新病変の出現などなく(Figure3)、PSも0で経過した。しかし、2006年1月のCTにて新病変の出現を観察した(Figure4)。肝表面に存在する新病変に対しては、出血のリスクも考慮して、2006年2月16日にTAEを行った。その後も2006年9月現在まで、4週間隔で治療を継続、PSは1で、良好なQOLで経過している。 

Discussion

肝細胞がんに対しては外科手術、TAE, RFAなど有効な局所療法が存在するが、化学療法についての有効性は高いとはいえない。最近、肝動注による化学療法とインターフェロンの併用による有効性が報告されている1)。肝腫瘍に対する免疫細胞療法は、特に肝動注によるスタディで15例中、CR2例、PR3例、MR4例を観察したことが報告されている 2)。瀬田クリニックグループにおいても免疫細胞療法単独で強い抗腫瘍効果を複数例で観察している。肝細胞がんはHCVなど肝炎ウイルス感染が背景にあり、CTLの認識するHCV特異抗原エピトープが同定されており 3)、AFP抗原エピトープとともに抗原ペプチドを用いた特異的免疫細胞療法も可能となっている。肝細胞がんに対して、今後、免疫細胞療法を取り入れた治療法の研究、発展が期待される。

report024_1.jpg

References

1. 門田 守人:進行肝癌に対するインターフェロン併用動注化学療法、医学の焦点、ラジオ日経、2004年8月2日
2. Aruga A, Yamauchi K, Takasaki K, et al. Induction of autologous tumor-specific cytotoxic T cells in patients with liver cancer.
Characterizations and clinical Utilization. Int. J.Cancer 1991; 49: 19-24
3. 井廻道夫. 肝炎ウイルス(1)HCVに対する抗ウイルス免疫応答、ウイルス、52: 151-156, 2002