臨床症例報告No.13 (PDF版はこちら 免疫細胞療法(CD3-LAK)が有効であったびまん性悪性中皮腫症例 瀬田クリニックグループ/かとう緑地公園クリニック 院長  加藤 昭

  • 種類:肺

Introduction

悪性胸膜中皮腫はアスベスト公害病として現在脚光を浴びているが、難治性で予後は概ね不良である。特に、びまん性悪性胸膜中皮腫においては胸膜肺全摘術などが試みられる場合もあるが、その効果は甚だ限られており、標準的な治療は存在しないが、免疫細胞療法については、その有効例が成書にも記載されており、注目される(臨床腫瘍学 第3版 日本臨床腫瘍研究会編、1041頁、癌と化学療法社)。
その報告では「49才の女性患者に対して、胸水から分離されたリンパ球を体外で培養し胸腔内移入したところ制御に成功し、4年4ヶ月社会復帰が可能であった」と紹介されている。
今回、免疫細胞療法(CD3-LAK療法)と放射線療法が有効であったびまん性悪性中皮腫の1例について報告する。

Case

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67才男性、2003年5月より咳嗽、労作時呼吸困難を訴え、右胸腔に大量胸水を認めたため、入院、胸腔ドレーンを挿入した。血液検査にてCYFRA上昇、CEA低値、ヒアルロン酸高値のため悪性中皮腫の疑い高く、胸腔鏡による生検を予定したが、ドレーン刺入部より体外へ増大してはみ出てくる腫瘍を認めたのでその部位を切除、病理検査を行い、悪性中皮腫StageⅢと確定診断された。ドレーン刺入部に皮下腫瘤が形成され、増大を認めたため、その部位には6月23日より放射線照射(3Gy×13回;計39Gy)が行われ、腫瘤は若干縮小した。
その後、本人へ化学療法などによる治療の可能性が説明されたが望まれず、best supportive careの予定であった。家族から免疫細胞療法をすすめられ、2003年7月25日に当院へ受診となった。点滴投与による免疫細胞療法(CD3-LAK法)を2週間間隔で施行したところ10月の時点で画像上、胸部陰影の明らかな縮小を観察し、CYFRAの値も下降した。その後も免疫細胞療法を継続し、2004年9月には胸部レントゲン上、ほとんど腫瘍影が観察されないまでに至った。しかし、2004年11月の胸部CTにて右肺下部胸膜に厚さ2cmのlesionが出現し、再発の診断にて同部位に30Gyの放射線照射を行った。続いて、照射終了後間隔を7日おいてCD3-LAKを2回、1週間隔で点滴投与し、右下部の再発は寛解した。
2005年5月には左鎖骨上リンパ節転移が出現、CYFRA値の上昇を観察するも、4週間間隔で免疫細胞療法を継続し、同年8月の時点ではリンパ節転移の増大は観察されず、CYFRA値も下降した。また、全身状態も良好、PSは0で維持されている。

Discussion

本症例は3期のびまん性悪性胸膜中皮腫で、治療により寛解、1年3ヶ月後に再発するも、質の高い生活を2年以上にわたって過せている。
3、4期の平均生存期間が5ヶ月程度であることを考慮すると、免疫細胞療法と2回の放射線療法による治療が有効に作用していると判断される。

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