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取材協力◎かとう緑地公園クリニック医師 横川 潔 |
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免疫細胞療法は、これからのがん治療のベースにもなり得る治療法である。しかし、免疫細胞療法が市民権を得て、多くのがん患者の希望にこたえるためには、医科学的な研究を質量共により充実させ、しっかりしたエビデンスのもと、がん治療での有効性の更なる向上が求められる。現在のがん免疫細胞療法について、かとう緑地公園クリニックの横川潔医師にお聞きした。
エビデンスを積み重ねることで評価が定まる
手術、抗がん剤、放射線という三大療法に加えて、免疫細胞療法もがんへの標準治療のひとつにしようという議論が盛り上がっている。患者さんのリンパ球を取り出して、それを培養・活性化させて体内に戻すという免疫細胞療法の実用化が進み、その効果に医療者、患者さんの両サイドからの期待が集まっているからだ。しかし、その一方で、免疫細胞療法を標準とするのは時期尚早だという意見も少なくない。そのメカニズムや効果について医学的な根拠が乏しいという理由からである。
大阪・かとう緑地公園クリニックの横川潔医師は、そうした流れを敏感にとらえ、免疫細胞療法を臨床で使いながら、積極的にそのエビデンス(科学的証拠)を明確にさせようとしている医師のひとりである。
「免疫細胞療法は、他療法と較べ副作用がほとんどなく、効果が期待できるという意味で、大きな可能性を秘めた治療法だと思います。がん免疫細胞療法を積極的に活用する現場の医師の感覚で言えば、抗がん剤との併用が特に有効で、例えば抗がん剤で5の効果が出るとすると、免疫細胞療法を併用すれば、副作用が加わることなく、効果が7にも8にも上がることがあります」
免疫細胞療法のエビデンスについては、全くないわけではないが、まだまだ学会レベルで認められるには質量共に不十分であり、プロスペクティブ*1な評価が可能な臨床試験等を行うことによって、更なる科学的証拠を積み重ねていかないと、免疫細胞療法が抗がん剤治療等と同様のレベルで評価される域に達することはできない。現在、横川医師は数種の免疫細胞療法の臨床試験を順次スタートさせつつある。学会レベルで認められるエビデンス集積のための本格的な作業に入ったのである。
「何千例か治療をしてこれだけ効果があったという、所詮レトロスペクティブ*2データの報告はできますが、それだけではなかなかエビデンスとしては認められないのが実情です。事前にプロトコル(臨床試験実施計画書)を作成して試験のデザインを決めて、対象となる患者さんに正式に治療施行の承諾を得た上にて治療を始め、その結果、どんな効果が出たかを客観的に評価するという方法をとる必要があります」
繰り返しになるが、免疫細胞療法が医学界で市民権を得るためには、まずしっかりしたエビデンスをとる必要がある。臨床の場で免疫細胞療法の効果を実感しているだけに、横川医師の思いは強い。臨床試験の結果には大いに期待がもてる。
活性リンパ球ががん細胞を攻撃しているところ
培養の環境を整え、リンパ球の活性度を高める
横川医師が、もう一点、自らの医療活動のテーマとしているのが、免疫細胞療法の効果をいかに上げるかである。
「免疫細胞療法は1980年代にNIH(国立衛生研究所・アメリカ)のローゼンバーグ博士が開発したLAK療法が起源ですが、ローゼンバーグ博士の方法では、強い副作用もあってなかなか広まりませんでした。手間がかかることも普及の足を引っ張っていたと思います。それが改良され、まずは安全性が格段に高まることで現在に至っています。これを更に進化させ、より効果を高めていくことが第一に必要なことです」
免疫細胞療法の効果は、患者さんの体内から取り出したリンパ球をいかに活性化させるか、原則としてその培養方法に負うところが大きい。たとえば、培地(リンパ球の栄養になるもの)の構成成分や酸素環境、温度や培養期間によって、リンパ球の分裂増殖速度や活性の度合いは大きく違ってくる。より活性度の高いリンパ球をより大量に投与した方が、効果が出るのは言うまでもない。また、培養段階で、管理がずさんだと病原菌が混入して感染症を引き起こす危険性もある。厳重な安全管理も必要不可欠な要素なのだ。
現在、免疫細胞療法は、数年前に比べて多くの病院、クリニックで採用されるようになった。そのため、どこで治療を受ければよいのか、患者の側としては迷うところだが、その優劣を判断するのは極めて難しい。
より優れた免疫細胞療法を開発するための研究は、まだまだ多くの余地が残されており、しかしながらその研究開発には、少なからぬ費用と手間を必要とすることは、論を待たない。卑近な例として、血液の管理という、意外と費用のかかる部分で手を抜いていれば、思わぬ事故や副作用に見舞われることもあるだろう。
同じ免疫細胞療法でも、病院やクリニックによって、その効果や安全性は同じではないのだ。
「大切なのは、まず安全であり、次により効果が出るための研究をどれくらいやっているかという、患者さんの目に見えない部分ですから、少なくとも表面的に判断するのは難しいですね。やはり、最終的には患者さんと医師との間の信頼関係にかかっていると思います」(横川医師)
高価な医療にふさわしい高レベルの治療法を目指す
最後に、免疫細胞療法を受けるに当たって大きなネックになっている費用の問題を横川医師に聞いてみた。
「少しでも安くなればとは思います。しかし、薬のように当局から健康保険適応の承認を受けて商品化されたら、研究開発費等の減価償却が済めば、研究費用の回収をし、後はほとんど利益になるという性質のものではないので、手術などと同様、治療の度に相応の費用が発生するため、安くすると言っても限度があります。
従って、高価な医療という点では、これからも大きくは変わらないでしょう。それを前提に考えれば、たとえば300万円のカローラは高いけど、クラウンなら300万円でも高くないという論理で、免疫細胞療法を値段に見合う以上の質にまで上げていくという、不断の努力が大切だと思います」
免疫細胞療法への期待は高まっている。一時的なブームとして終わらせるにはもったいないだけの効果もたくさん報告されている。これからのがん治療のベースともなり得る治療法である。
この治療法を根付かせるために、横川医師ら真摯に免疫細胞療法と取り組む医師たちの挑戦は、まだまだ続くのである。
* 1 プロスペクティブ:現在から将来へ向けてデータなどの情報を収集する方法
* 2 レトロスペクティブ:現在から過去にさかのぼってデータなどの情報を収集する方法
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