臨床症例報告No.42 (PDF版はこちら 免疫細胞療法単独により完全奏効(CR)に至り、5年半以上が経過している腎細胞癌の症例 【特定連携医療機関】福岡メディカルクリニック 院長 内藤 恵子

  • 種類:腎臓

INTRODUCTION

腎細胞癌は、50-70歳代で発症することが多く、その罹患数は年間約23,000人を超え、増加傾向にある。腎癌全体の5年生存率は70%であり、Stage別ではⅠ/Ⅱ/Ⅲ/Ⅳで90/70/50/20%と進行例は予後不良である。

今回、化学療法の継続が困難となった腎細胞癌の患者に対し、免疫細胞療法(アルファベータ(αβ)T細胞療法と樹状細胞(DC)ワクチン療法)のみの治療が著効し、完全奏効(CR)に至り、5年半以上が経過している症例を経験したので報告する。

CASE

【70歳代、男性、腎細胞癌、PS=0】
特記すべき既往歴はなし。

2013年8月、検診にて血尿(尿潜血3+)の指摘を受け精密検査を実施し、腎細胞癌と診断され、同年10月に左腎部分切除術を施行(clear cell carcinoma、G2>>G3、INFα、v1、lyx、pT3a、sN0、sM0、Stage Ⅲ)。

2014年1月、左腎周囲の局所再発を認め、sunitinibによる化学療法を開始するも徐々に腎機能が悪化し、3月よりeverolimusに変更。同年5月、急性肝障害(胆汁うっ帯型肝障害)のためeverolimusを中止。

2014年6月、免疫細胞療法検討のため当院を受診された。FCM、HLA(A0201ホモ)、免疫染色検査(MHC-Ⅰ(3+)) を実施すると共に、6月よりαβT細胞療法を開始した。同年8月、局所再発巣の増大傾向が持続し、9月よりMUC1、CEAおよびMelanAペプチド添加型のDCワクチン療法とαβT細胞療法の併用を開始。2年間は1~2ヵ月ごとに細胞投与、2016年から2019年9月まで4~6ヶ月ごとの頻度で細胞投与を継続した。

RESULT

同年10月よりは局所再発巣(Figure 1)は縮小し、疼痛や下肢浮腫の症状緩和が認められた。CRPもDCワクチン療法併用開始後2ヶ月で基準値以下に低下した。αβT細胞療法開始から2年半以上経過した2015年12月の画像診断で完全奏効(CR)の評価、免疫細胞療法は2019年9月で終了しているが、2021年3月の画像診断でも完全奏効(CR)を維持している。

Figure1:治療スケジュールとCTの推移

DISCUSSION

転移再発腎細胞癌(metastatic Renal Cell Carcinoma, mRCC)では以前から、Interleukin-2(IL-2)やInterferon-α(IFN-α)などの免疫に作用する薬剤により、15-18%程度の患者に効果が認められることが知られていた。mRCCの腫瘍組織には様々なリンパ球浸潤が認められ、特に腫瘍浸潤リンパ球(tumor-infiltrating lymphocytes, TIL)は他の悪性腫瘍と比較し豊富であり、この中には制御性T細胞(Treg)やCD8+T細胞などが含まれている[1]。一方でmRCCでは、Th1からTh2優位にシフトする免疫異常やTregの増加がみられ、この異常は病期や病勢に相関していることも報告されていることから[2]、腫瘍に対する免疫応答が破綻し病状を悪化させていると考えられる。加えてmRCCではPD1の発現が高く、腫瘍特異的CTLからの回避機構も存在すると考えられる。このようなPD1の発現が高いmRCCでは、抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体である免疫チェックポイント阻害剤が有効であり、本邦でも保険適応となった[3]。

Figure2:治療前後の末梢血中リンパ球数およびTreg比率の推移

本例では、免疫細胞療法単独で治療効果が認められたが、その治療前後の血中リンパ球数のprofileを解析したところ、治療後にTregの低下が認められ免疫抑制状態からの改善が得られていたと共に、αβT細胞 (CD3+ TCRαβ+)、Killer T細胞(CD3+CD4-CD8+)の増加が認められた(Figure 2) [4]。これらの免疫状態の変化が実際の腫瘍組織内でどのように関与しているかは今後の検討課題であるが、免疫細胞療法単独で効果が見られたのはTregの低下による免疫抑制の解除やエフェクター細胞の増加が関係していた可能性がある。

また、近年ではmRCCに対して分子標的薬が薬物療法の中心となっているが、mRCCで適応承認が得られている様々なチロシンキナーゼ阻害剤は、腫瘍免疫応答に深く関与していることが明らかにされている[5]。本例で用いられたsunitinibは、エフェクターT細胞の機能抑制やTregの増加を促すmyeloid-derived suppressor cells (MDSCs)の抑制をもたらすことが知られている[6]。また、everolimus(mTOR阻害剤)は、樹状細胞の分化に関わっていることも明らかにされている[7]。

このように、mRCCに対する免疫治療と既存の分子標的薬の併用による複合免疫治療は、今後、mRCCの治療成績を向上させる可能性があると考えられた。

REFERENCES

  1. Kopecky O, Lukesova S, Vroblova V et al. Phenotype analysis of tumour-infiltrating lymphocytes and lymphocytes in peripheral blood in patients with renal carcinoma. Acta Medica (Hradec Kralove) 2007; 50: 207-212.
  2. Ning H, Shao QQ, Ding KJ et al. Tumor-infiltrating regulatory T cells are positively correlated with angiogenic status in renal cell carcinoma. Chin Med J (Engl) 2012; 125: 2120-2125.
  3. Motzer RJ, Rini BI, McDermott DF et al. Nivolumab for Metastatic Renal Cell Carcinoma: Results of a Randomized Phase II Trial. J Clin Oncol 2015; 33: 1430-1437.
  4. Noguchi A, Kaneko T, Naitoh K et al. Impaired and imbalanced cellular immunological status assessed in advanced cancer patients and restoration of the T cell immune status by adoptive T-cell immunotherapy. Int Immunopharmacol 2014; 18: 90-97.
  5. Santoni M, Berardi R, Amantini C et al. Role of natural and adaptive immunity in renal cell carcinoma response to VEGFR-TKIs and mTOR inhibitor. Int J Cancer 2014; 134: 2772-2777.
  6. Mantovani A, Cassatella MA, Costantini C, Jaillon S. Neutrophils in the activation and regulation of innate and adaptive immunity. Nat Rev Immunol 2011; 11: 519-531.
  7. Powell JD, Pollizzi KN, Heikamp EB, Horton MR. Regulation of immune responses by mTOR. Annu Rev Immunol 2012; 30: 39-68.