臨床症例報告No.39 (PDF版はこちら ベバシズマブ単剤にCell Loading System を使った自己腫瘍パルス樹状細胞ワクチン療法とアルファ・ベータT細胞療法併用により、1年間の安定(SD)を維持している4期、肺がん症例 瀬田クリニックグループ / 瀬田クリニック東京  後藤 重則

  • 種類:肺

INTRODUCTION

非小細胞性肺がんに対しては化学療法剤に抗VEGF抗体であるベバシズマブ(BV)が併用使用されている。BVの作用機序は腫瘍組織の血管新生を阻害して増殖を抑制することとともに、腫瘍血管を正常化することで、併用する化学療法剤の腫瘍移行性を上昇させることと考えられている。非小細胞性肺がんにおいては、BV併用化学療法後の維持療法としてベバシズマブ単剤での治療が行われるが、BV単剤での効果は限られている。プラチナ製剤を含む2剤併用化学療法とBV投与による1次療法後、 維持療法として効果を評価したランダム化二重盲検による臨床試験(ATLAS試験)の結果では、BVとエルロチニブ併用での無増悪期間の中央値は4.8ヶ月で、BVとプラシーボ併用の3.7ヶ月より有意な延長が観察されている(1)。また、維持療法としてのBV+PEMとBV単剤を比較した、無作為化オープンラベルによる臨床試験(AVAPERL試験)では、無増悪期間の中央値はそれぞれ、10.2ヶ月と6.6ヶ月であり、BV+PEMに有意な延長が観察された(2)。しかしながら、化学療法剤あるいは分子標的薬を維持療法として長期に使用する場合、副作用が障害となり継続できない場合もある。BVには免疫学的な作用として腫瘍免疫応答に利に働くことが報告されており、BV併用のがん免疫療法も期待されている(3,4)。

CASE

症例は60歳、女性、喫煙歴なし、既往歴は特記すべきことなし。2011年1月、右鎖骨上に腫瘤を触れ、受診、精査にて右下葉原発の肺癌、縦隔および右鎖骨上リンパ節転移、多発肺内転移、腺癌、臨床進行期T4N3M1aと診断された(Fig.1)。
同年、3月初旬よりCDDP+PEM+BVによる治療を4週間間隔にて開始した。当院には2011年2月末に受診、治療法について相談、過去に採取した生検組織を用いた免疫組織化学検査により、腫瘍細胞のMHCクラスIの発現は2+と良好であった(Photo1)。自己腫瘍を抗原とした樹状細胞ワクチンが最良の治療法と判断された。右鎖骨上の転移リンパ節の切除は容易と考えられ、3月初めに局所麻酔下で切除、その腫瘍組織を溶解して溶解液(Lysate)を調整した。5月初めにアフェレーシスにより、大量の単核球を採取、ex vivoで樹状細胞に分化させ、Cell Loading System® * を用いてLysateを導入した。4月末に1回のアルファ・ベータT細胞療法を先行させ、体内のT細胞を増加させた上で、5月末より樹状細胞ワクチンを開始した。化学療法を6月始めまで4回施行、免疫細胞治療を3回施行後の6月のCTにて部分寛解(PR)を観察した(Fig.2)。その時点でCDDP+PEM+BVによる化学療法は終了として、7月より維持療法としてBV単独での治療を3週間間隔で継続した。BVは軽度の血圧上昇以外は特に副作用はなかった。樹状細胞ワクチンは2011年12月までに12回施行、アルファ・ベータT細胞療法も6回施行した。1×106個の樹状細胞ワクチンの前腕皮内への投与により1cm以上の発赤が出現し、遅延型過敏反応の誘導が観察された。その後は、2012年7月現在まで1ヶ月に回のアルファ・ベータT細胞療法を継続、2012年1月末、2012年5月末のCTでも腫瘍の増悪はない(Fig.3,4)。

* Cell Loading System® ; Electroporation法を用いたダメージを与えずに樹状細胞内へ安定、効率的に蛋白抗原の導入が可能な技術

DISCUSSION

樹状細胞ワクチンの作成においてはex vivoで樹状細胞に抗原をパルスする。現在、抗原として、既知のがん抗原蛋白のエピトープペプチドを合成したものあるいは自己腫瘍のLysateが使用されている。前者はほとんどがMHCクラスIのみのエピトープに限られること、HLA拘束性のためHLA型があわないと使用できない、患者の腫瘍細胞での発現がない場合が少なくないなどのデメリットがある。後者は理論的に、未知の抗原も含めて患者の腫瘍細胞が有するがん抗原蛋白がすべて含まれることになることが利点となる。しかしながら、ex vivoでは、ペプチドのように細胞表面のMHCに直接に結合する場合と違い、樹状細胞の貪食によるLysateの取り込みの効率はかならずしも良好とはいえない。Cell Loading System®を使用すると、Lysateの細胞内への取り込みは貪食による場合と比べて10倍以上と報告されている。また、貪食による場合は、抗原提示はMHCクラスIIが中心となるが、Cell Loading System®ではクラスIおよびIIの両者へ効率よく抗原提示がなされ、CTL誘導能が格段に高まることも観察している。本例はBVを使用しているが、ほとんど副作用なく1年間という比較的に長期の安定を維持している。今後、引き続き、BV+アルファ・ベータT細胞療法で経過観察予定である。

REFERENCES

1. Miller V et al. Abstract LBA8002 presented at ASCO 2009 Annual Meeting, Orlando, US
2. Barlesi et al. 2011 European Multidisciplinary Cancer Congress abstract: F. 'AVAPERL (MO22089): Final Efficacy Outcomes for Patients With Advanced Non-squamous Non-small Cell Lung Cancer Randomised to Continuation Maintenance with Bevacizumab or Bev+Pemetrexed After First-line Bev-cisplatin-pem Treatment. ' Abstract 34 (LB)
3. Manzoni M, Rovati B, Ronzoni M, et al.: Immunological effects of bevacizumab-based treatment in metastatic colorectal cancer. Oncology.; 79: 187-196, 2010
4. Hickey MJ, Malone CC, Erickson KE, et al.: Implementing preclinical study findings to protocol design: translational studies with alloreactive CTL for gliomas. Am J Transl Res., 4: 114-126, 2012